再生医療研究でも、研究者は研究費を取りやすそうなテーマに駆り立てられる傾向がある。ひとつのシーズに研究が集中すると、多様性が失われる。生命科学研究はさまざまな分野の技術が互いに支えあっているものなので、ひとつのシーズではなく、その周辺を支える領域に広く予算を配分するべきだった。

 いま振り返ると、予算の過剰な集中を避けるためのブレーキ役や、冷静に判断するための方法論がなかった。

「選択と集中」の弊害はすでに出ている。競争的資金は短期間しか予算がつかないので、研究者が育たないし定着しない。瞬間最大風速的には雇う人が増えても、安定雇用ができない。

 CiRAの山中所長は、研究時間を削ってまで継続雇用のためにクラウドファンディングや寄付などを募り責任を果たそうとしている。

 以前の医学生理学賞は、すでに実用化された過去の研究が受賞していたが、最近は生命科学研究のタイムスパンが短くなり、iPS細胞のようにまだ応用が進んでいないものの受賞も、今後は増えてくるだろう。ノーベル賞受賞のインパクトは大きく、社会認知も広がるため、臨床応用を加速しようという流れになる。

 それ自体は悪いことではないが、臨床応用だけに集中投資すると、研究領域の多様性を損ない、新たな研究の芽をつんでしまいかねない。(構成 編集部・長倉克枝)

AERA 2017年10月16日号