150年前の不都合な事実も忘れないで(※写真はイメージ)
150年前の不都合な事実も忘れないで(※写真はイメージ)

 来年は明治元年にあたる1868年から150年。これに合わせ、国や自治体、民間が主催する関連イベントが目白押しだ。復古的な色彩の印象もぬぐえないが、「明治翼賛」一色のありようには違和感がある。

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 政府がインターネットで5月に公開した動画「MEET THE 明治ノベーション」。制度、インフラ、生活様式など、さまざまな分野で刷新を遂げた明治の「イノベーション」を紹介するビデオだ。アニメキャラクターが陽気に誘いかける。

「変化を恐れなかった明治時代を知れば、未来に希望をもって進めるかもしれませんよ」

 明治元年は1868年。150年を迎える来年に向けて、政府内で「機運醸成」の役割を担うのが、内閣官房の「明治150年」関連施策推進室だ。冒頭の動画も関連施策推進資料と位置付けられている。

 国は昨年12月、「明治以降の歩みを次世代に遺す」「明治の精神に学び、更に飛躍する国へ」とする「基本的な考え方」を決定。今年7月の中間とりまとめで17府省庁にまたがる約200の関連施策を発表した。

 同推進室は「明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは、大変重要なことです」とアピールしている。果たして「明治」は、「日本の強み」を凝縮した時代だったのか。

●単なるノスタルジー

 徳川幕府から朝廷へと政権が移り、天皇を中心とした立憲君主制と資本主義を両輪に、日本が欧米の文化や仕組みを取り入れて、いまに連なるさまざまな事柄の輪郭が出来上がったのが、「明治」という時代だ。

 立命館大学の奈良勝司助教(幕末維新史)はこう特徴づける。

「鎖国から開国への転換、急激な身分解体と中央集権化、西洋化などが挙げられますが、これらは『武力の底上げ』という表現でくくることができます」

 近代を経た日本の「国民」は、武力(国力)の底上げへの奉仕を内面化することを強いられた。奈良氏はこう総括し、政府方針に強い違和感を示す。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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