2年ほど前、母(86)の様子がおかしいと、親が住む地区の地域包括支援センターに駆け込み、介護認定を受けたというのは、「ブレイン横浜たなべ社労士事務所」(横浜市)代表の田邊雅子さんだ。

「母に認知症の症状が出始めて相談に行ったのが地域包括支援センターでした。そこでアドバイスされて役所の介護認定を受けましたが、判定結果は『自立』だったので、介護保険のサービスを使うことができませんでした。でも、それ以来、地域包括支援センターが父と母を見守りの対象にしてくれたので、離れて暮らす私たち子どもは安心できました」(田邊さん)

●緊急連絡先を壁に貼る

 そのとき、自治体で配布している「救急医療情報キット」をもらい、冷蔵庫で保管しているという。筒状の入れ物の中に、父と母のかかりつけ医や投薬内容などの医療情報を書いた紙を入れておく。救急隊が駆けつけたとき、玄関ドアに貼られたシールを目印に、冷蔵庫内のキットを持ち出すと、病院への連携がスムーズにいく。

「さらには地域包括支援センターから、近所の『民生委員』を紹介してもらいました。もしものときのためにご近所さんや、いつでも駆けつけてくれる親の友人と連絡先を交換しておくことも、遠距離介護をする上でとても大事です」(同)

 自宅で看取りができる態勢を整えるために「ケアマネジャー」に、ケアの方法について相談しておくのはもちろんだが、なかには「自宅にあまり他人を入れたくない」という人もいるので、本人の要望を確認しておこう。また、自宅で倒れたときの備えとして、主治医などの緊急連絡先を壁に貼っておくと、誰が家に駆けつけても、すぐに対応できる。

「最期の医療を選択する」とき、病気や余命の告知は慎重にしなければならない。気管切開をして人工呼吸器をつけるような回復の見込みがない状態と知ったときでも、家族なら「1日でも長く生きてほしい」と思うもの。父を看取ったB子さん(会社員・47)もそのひとり。

「少しでも長く生きていてほしいと思いましたが、回復の見込みがないと言われ、医師の治療する気のなさが伝わり恨めしかった。結局、延命治療はしませんでしたが、父本人がそれを納得していたかはわかりません」(B子さん)

 自分で意思決定ができるうちに、最期の医療について事前にまとめた書面のことを「事前指示書」という。

 決まった形式はないが、「余命・病名の告知」「心肺の蘇生など延命措置」をするかどうか、あらかじめ書いてもらうと、家族の心の負担も軽くなる。

 終末期が近づいてきたら、医療費の支払いや葬儀代などまとまった現金を手元に置いておく必要がある。

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