●2人だけで入れる墓を

 介護現場に長年従事してきたMさんには忘れられない経験がある。Mさんは40代後半の男性同性愛者。勤め先の施設で、女性言葉を使う男性利用者がほかの利用者から嫌がらせに遭っていた。

 だがある日、その人がある男性利用者と部屋を行き来していることが分かった。当初は嫌悪感を示した職員たちも、体が衰えてなお寄り添う二人に心を打たれ、「最後は静養室で一緒にしてあげよう」。

 自分はゲイだと言えなかったが、職員の意識の変遷が今の自分の原点になった。「相手のありのままの人生を受け止め、一番近くで手伝う、そんな使命感を持っています」

 性的マイノリティーの「終活」問題に取り組む寺も出てきた。證大寺(東京都江戸川区)では、「家族と一緒の墓に入れない」というパートナーの死に際する課題に不安を抱く当事者たちと、僧侶による座談会を開き、「家」中心の墓制度の現状や疑問などについて話し合いを進めている。送迎バスの運転手も含めた全職員で、LGBTについての勉強会も重ね、昨年10月にはこれまでの大前提だった「次世代への維持継承」を不要とし、2人だけで入れるお墓を考案した。

 住職の井上城治さん(43)は言う。

「ここ数年でさまざまな問題が横たわっていることが可視化された。仏教に差別はない。人生の終わりを誰もが安心して迎えられる体制の整備は寺の務め」

 自死を選んだ彼へ、早くして逝った先達へ。長く生きることになりそうな私たちを取り巻く世界は今、変わりつつあります。

(ライター・加賀直樹)

AERA 2017年6月12日号