NPO法人パープル・ハンズ事務局長の永易至文さん。LGBTの暮らし、お金、老後について取り組む草分け的存在だ。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』(太郎次郎社エディタス)などがある(撮影/加賀直樹)
NPO法人パープル・ハンズ事務局長の永易至文さん。LGBTの暮らし、お金、老後について取り組む草分け的存在だ。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』(太郎次郎社エディタス)などがある(撮影/加賀直樹)

 レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとってLGBT。性的マイノリティーを表すために生まれ、定着しつつある言葉だ。たしかに一定の理解は進んだ。だが、LGBTとひとくくりにすることで、塗りつぶされてしまった「個」や思いがあるのではないか。性的マジョリティー側は「わかったような気持ち」になっているだけではないのか。AERA6月12号の特集は「LGBTフレンドリーという幻想」。虹色の輝きの影で見落とされがちな、LGBTの現実に迫る。

 1990年代以降、等身大で生きる性的マイノリティーは確実に増えた。いま、直面するのは「老い」だ。ロールモデルのいない人生の荒野に彷徨いながら、生きている。

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 筆者(42)は男性同性愛者です。ごく身近な人だけに明かして生きてきました。孫の顔を両親に見せられないのがつらいですが、自分自身を恥じたことはありません。

 ただ、かつてのパートナーを自死で失ったことをきっかけに、激しく落ち込んだのち、ふと我に返りました。「この先の長い人生、どう生きていこう」。見渡してみると、そこには昨今のムーブメントで自己にプライドを抱き始めた人たちの、老いに向き合っていくためのヒントを探る動きが芽生えていました。

「通夜にも葬儀にも来ないでほしい。それから墓参りもしないで」。親族からの強い意向を聞かされ、言葉を失った。迷惑がかかるので詳細は書けないが、彼は生前、最後に筆者の携帯に電話をかけてきてくれ、いまだ結婚を強く迫る肉親への葛藤や将来への不安を伝えてきた。筆者に何かできることはなかったか。

 えっ、我々の生き方は「恥」なのか。自死という事情もあるだろうが、親族の言葉には自分たちの生き方を否定された気がして、そこから長らく立ち直れないでいる。

●人生の「型」描きにくい

 1990年代以降、日本や世界におけるゲイムーブメントが功を奏し、自らの性的指向と向き合って等身大の自分を生きる性的マイノリティーは確実に増えてきた。

 だが、年齢を重ねて今、この先を生きていくためのロールモデルが、筆者を含め見えていない人が多いように思う。

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