日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などの集会にビデオメッセージを寄せた安倍首相。出席者は真剣に聞き入っていたという (c)朝日新聞社
日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などの集会にビデオメッセージを寄せた安倍首相。出席者は真剣に聞き入っていたという (c)朝日新聞社

 憲法議論を後退させているのは、安倍晋三首相自身なのではないか。そう思いたくなるほど、改憲に関する首相の発言が国会を混乱させている。

 5月3日の憲法記念日。安倍首相は、憲法改正を求める集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と明言。改憲項目として9条1項、2項を残したまま自衛隊の存在を明記した条文を追加すること、高等教育の無償化を定めた条文の新設を挙げた。また、読売新聞の単独インタビューにも応じ、同様の持論を大々的に展開した。

●与野党協調が台無し

 しかし、8日の衆院予算委員会で発言の真意を問われると、首相は「私は内閣総理大臣として(予算委に)立っており、自民党総裁としての考え方は読売新聞に書いてある」と説明を避けた。翌9日の参院予算委員会では野党からの強まる追及に対して、「自衛隊について憲法学者の7割、8割が違憲と言う状況を変えていくことは私たちの世代の責任」など一定の見解を示したが、“読売発言”の撤回は拒否。野党は「国会の軽視だ」と反発し、11日に予定されていた衆院憲法審査会は見送られた。

 憲法改正案を作る憲法審査会は、与野党協調を重視して議論を重ねてきた。与党側も野党と合意形成ができない改正案では、たとえ国会で発議しても、国民投票で過半数は得られないとの意識があったからだ。衆院憲法審査会の野党筆頭幹事で民進党の武正公一衆院議員は「首相発言が議論の妨げになっている」と批判する。

「予算委でも『民進党も案を出せ』と言っていたが、憲法審査会が他の委員会とは異なることを全く理解していません。審査会では各党が草案をそのまま出す方法は取らないのが共通ルールです」

 審査会は、少数政党も平等の発言権を持ち、幅広く国民のための憲法とは何かを議論し、改正案を発議する必要があるならば、各党が一致できる項目がどこにあるのか探っていく。

「今はそれを積み上げている段階で、改正項目の絞り込みまでは至っていない。それなのに、具体的な改正項目にまで言及した首相の表明は、今までの審査会の議論を台無しにするものです。議論の活性化どころか、首相発言は逆効果でしかありません」(武正氏)

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