アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作品「ぼくと魔法の言葉たち」は4月8日から全国で公開される (c)2016 A&E Television Networks, LLC. All Rights Reserved.
アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作品「ぼくと魔法の言葉たち」は4月8日から全国で公開される (c)2016 A&E Television Networks, LLC. All Rights Reserved.
ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督が手がけた本作は、2016年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、USドキュメンタリー部門監督賞を受賞した(撮影/古川雅子)
ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督が手がけた本作は、2016年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、USドキュメンタリー部門監督賞を受賞した(撮影/古川雅子)

 2歳で突然言葉を失い、「自閉症」と診断された米国人青年。彼を沈黙から救い出したのは、家族とディズニーアニメだった。

 米国で暮らすオーウェン・サスカインド(26)は、「広汎性発達障害(自閉症)」と診断されている。2歳で発症し、6歳までは誰とも意思疎通ができなかった。ロジャー・ロス・ウィリアムズ(43)が最新監督作のドキュメンタリー映画「ぼくと魔法の言葉たち」で映し出すのは、オーウェンが自立を勝ち取っていく現在進行形の日常だ。

●アニメにはないけれど

 幼いころから、ディズニーアニメのキャラクターたちが発するセリフをまるごと記憶してきた。それを日常に使う言葉に置き換えることで、外の世界とコミュニケーションできるようになった。だが、青年期を迎えたいまは、ディズニーでは解決できない課題がいくつもある。

 大学卒業の直前、親元を離れ一人で暮らす気分を両親に「不安で楽しみ」と語るオーウェン。映画はそんな場面はもちろん、恋に落ち、彼女との距離感に悩む様子も包み隠さず記録している。

 オーウェンの恋愛相談にのる二つ年上の兄はカメラを前に、「弟に恋愛を教えるのは難しい」

 と語っている。なぜなら、「セックス」は、ディズニーのキャラクターが決してしないことの一つだが、実際の恋愛では避けて通れないからだ。

 撮影期間は、オーウェンにとって人生の節目だった。監督は偶然のタイミングだったと話す。

「両親から、『今年、オーウェンが学校を卒業して、アパートで一人暮らしを始めるんだ』と聞いてね。『え、そうなの?』と。僕は現在進行形のドラマに心引かれた。結果的に、カメラを回してからの1年は彼にとってはすごい時間になったんだ」

 ウィリアムズは、2010年にアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞。アフリカ系アメリカ人監督として初めてのオスカー受賞者となった。すべての作品に共通するのは、貧困や人種差別、障がいなどに立ち向かう、ともすれば「はみ出し者」とされる人々を擁護する姿勢。監督自身が「はみ出し者」ゆえの疎外感を抱いてきた。ゲイで黒人。コミュニティーからも見捨てられ、頭の中に物語世界を作らなければ、生きていけなかったという。

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