●幅広い関連産業の裾野

 自動運転が起こす事故の行き着く先は、製造物責任の問題に違いない。部分・完全自動運転車は2025年には1450万台、35年には3千万台に達し、新車販売台数の4分の1を占めるという予測もある自動運転自動車の関連産業の裾野は幅広い。損害賠償責任は、いったん事故が起きれば極端に大きくなる可能性を秘めている。エアバッグの死亡事故によるリコール対象車が世界で1億台以上に達した自動車部品大手のタカタの例を考えれば、自動運転に伴う製造物責任保険の保険料も相当高額になるのは明らかだ。果たして個々の企業が経営にかけるコストとして耐えきれるのか。一方で、どれだけ売れるかわからない保険の商品開発に保険業界が及び腰になるのも当然だ。こんな状態で事故が起これば被害者の救済はとてつもなく遅れる。

「そのために中間をとって、自動運転によって起こった事故についてだけの特別な製造責任を考える必要がある。そして専用の保険商品に義務的に関連企業を強制加入させることで保険料も安くするような仕組みになっていくんじゃないでしょうか。製造物責任法なら消費者庁で、保険商品は金融庁ですが、この場合の保険は所管する省庁もまたがるでしょう。いずれにしても内閣府を中心に、どういう法的整備をしてビジネスモデルをつくり、産業界がどういう損害賠償システムを構築していくのかきちんと詰めないと、いくら技術が進歩しても自動運転自動車の市場そのものが伸びないと思いますよ」(同前)
 バラ色の未来予測図は、保険を始めとした社会環境という下絵を幾重にも重ねて初めて描けるものだ。

●アイコンタクト不感知

 国際規格の統一もその一つ。国際運転免許証の根拠などになり日米も参加している「ジュネーブ交通条約」は、走る車は運転者たる人が必ず制御しなければならないことを定めている。現在実験走行が認められるレベル4以上の自動運転は、厳密に言えば条約違反になる。

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