実際自動運転が普及するにあたって、自動車保険はどう変容を迫られるのか。一般社団法人日本損害保険協会は昨年6月、「自動運転の法的課題について」という報告書をまとめ、レベル3の自動運転までは現行の自動車損害賠償保障法(自賠法)と民法に基づく考え方が適用可能であると整理した。だが、損保各社で商品開発が活発に進んでいるかと言えばそうではない。

 例えば進行方向が一方向で停車することも少ない高速道路や、五輪の選手村のような限定エリアなら想定できる条件は限られるが、一般道では歩道も交差点も三差路も五差路も段差もある。前提条件を設定するのにパターンが複雑すぎるし、自動運転システムをハッキングされた場合には、事故がどう連鎖していくのか想定するのも困難だ。

「協会としては国土交通省や経済産業省の検討会にオブザーバー参加しています。しかし、自動運転の法体系と全体像が定まらないとそれに合わせた保険の整備も容易でないので、我々業界もこうした検討状況を注視しているところです」(日本損害保険協会)

●運転者に過失がない

 自動運転時代の保険はどうあるべきか。判事経験の長い鬼頭季郎弁護士(紀尾井町東法律事務所)はこう考える。

「最も大事なのは事故の被害者の迅速な救済。そのためには今の保険制度ではダメでしょう。自動運転によって起きた事故を対象にした製造物責任法と、それ専用の製造物責任保険をつくる必要がある」

 そもそも自賠法は、運転者の無過失責任が原則で、過失の有無にかかわらず賠償をする仕組み。しかし、自分の責任がないことが立証できれば免れられるという「ただし書き」がついている。運転者がシステムから判断を委ねられる場合のあるレベル3は境界線上だが、レベル4以上なら明らかに運行支配をしているのはシステムになる。すなわち運転者に過失がない「ただし書き」が当てはまり、自賠法による被害者救済ができない。

「事実上の運行責任者はシステムを作った人、もしくはシステムとメカニズムを結び付けた人、つまり自動車メーカーだが、そこが自賠法上の無過失責任を負うかというと、違和感がある。製造物責任のほうがなじむと思います」(鬼頭弁護士)

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