その一つのハイパーループ・ワン社は昨年5月、米ラスベガス近郊の砂漠での実験を初公開。最大時速約187キロで約2秒間の試験走行に成功した。同社は昨年11月、アラブ首長国連邦(UAE)と史上初のハイパーループ建設で合意したことを発表するなど、具体的な動きが出ている。通常は車で約2時間かかるドバイとアブダビ間の約160キロを約12分で移動できるようになる、という。

 そのハイパーループ・ワン社がYouTubeにアップしたイメージ映像がすごい。

●やがて形は箱状に

 内容はざっとこんな感じだ。2020年のアブダビのオフィスで仕事をしていた男性が午後4時半、ドバイに住む家族から「今日は母の誕生日だって忘れていない? あと30分で母が到着する」というメッセージをスマホで受ける。男性はスマホの交通システムアプリを立ち上げ、ドバイの自宅までハイパーループの使用を選択。するとハイパーループのターミナルまで5分歩き、ゲート97に行くように指示を受ける。

 ゲート97には「旅客ポッド」と呼ばれる箱状の乗り物があり、乗り込むとポッドは自動的に動き出す。内部には小さい机と椅子が四つ置かれており、男性は流れる音楽を聴きながら、コーヒーを片手に新聞を読み始める。旅客ポッドはターミナル内で、同じようにドバイに向かう別の旅客や貨物ポッド三つとともに細長いカプセルに収容される。そのカプセルはドバイまでつながる加圧チューブの中を一気に高速移動し、午後4時45分にはドバイのターミナルに到着。カプセル内から出てきた旅客ポッドは、一般道に出て、そのまま男性の自宅まで自動運転を続ける。

 まさにIoT時代の究極のモビリティーを映像化したものがこのハイパーループなのだ。

 UXの最大化にたけたマスク氏だ。スペースX社の技術と融合させ、旅客ポッドを収容したカプセルを宇宙まで運んでしまうという壮大な構想も抱いているかもしれない。ハイパーループのイメージ映像で想定している20年は、わずか3年後。この想定こそが、「100年に一度の大変革」に直面している自動車産業の現状を物語っている。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年3月6日号