2年間エレキ作りを学んだ後、就職先に選んだのがアコースティックギターの工場。就職活動で多くの工場に足を運び、「エレキとアコースティックは構造が全く異なりますが、機械作業が多いエレキより手作業が多いアコースティックを面白いと思ったんです」


ふるさとの大阪府枚方市から信州へ、3度目の「チェンジ」で松本にたどり着いたのは1992年。塗装や、ギターの本体を作る木工部門などを経て、2014年からは1本30万~80万円するギターを全工程一人で作るとともに、工場全体を見回り、部下に製作を指導する。

 完成までに約3カ月。塗装と研磨を繰り返し、一本一本大切な我が子のように手がける。加工前の胴体用の板は軟らかい。弦を張ると、約60キロの負荷が胴体の表部分にかかるため、ブレーシングという骨組みで強化する。しかし、強くしすぎると、今度は音が鳴らなくなる。バランスが大切だ。

「完成後に、注文者からさらに難しい要望が入ることもありますが、『できません』と言いたくありません。一人で全工程を手掛けるので、そのギターがどういう変化をしてきたかがわかるのが楽しい」

 休日は妻と2人、同じ種類の一眼レフを持って山の草花を撮影しに出かける。自然を細部まで観察する目が、美しい音色を奏でるための丁寧な手作業へと続いている。

(文中敬称略)

(編集部・小野ヒデコ)

AERA 2016年11月21日号