枡野俊明(ますの・しゅんみょう)さん(63)/曹洞宗建功寺住職/1953年生まれ。建功寺住職のかたわら庭園デザイナーとしても活躍。著書や講演を通じ、禅の教えを生活に生かす考えを説く(撮影/倉田貴志)
枡野俊明(ますの・しゅんみょう)さん(63)/曹洞宗建功寺住職/1953年生まれ。建功寺住職のかたわら庭園デザイナーとしても活躍。著書や講演を通じ、禅の教えを生活に生かす考えを説く(撮影/倉田貴志)

 日進月歩の家電の進歩で、家事は驚くほど楽になって…いないのはなぜだ! 気が付かぬうちに“メタボ化”した家事は時に苦役だ。家事は本来生きること。私たちの手に、家事を取り戻そう。AERA 2017年2月13日号では、「家事からの解放」を大特集。世界的に見ても男性の家事参加率が低い日本。曹洞宗建功寺住職・枡野俊明さんに、家事について話を聞いた。

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 禅の一派、曹洞宗の開祖である道元禅師は、修行道場の料理担当(典座(てんぞ))の心得、食事をいただく修行僧の心得を説いた『典座教訓(てんぞきょうくん)』『赴粥飯法(ふしょく)』という書を書かれています。禅の教えでは坐禅と読経だけでなく「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」、つまり我々のすることすべてが行と考えます。掃除や食事作りなどの家事も、すべて修行。私たちも修行僧時代、掃除や洗い物、食事作りなどあらゆる家事をひととおりやりました。包丁を触ったことがない人間でも、3カ月あればかなり慣れてきますし、味付けなどが工夫できるようになると楽しくなってくる。大根ひとつでも、新鮮なものなら煮つけに、そうでなければ別の料理を──と素材を見極め、考えて調理するようになります。家事でもなんでも自分でやることで自分を高めることにつながるし、視野が広がります。人の気持ちがよくわかるようになってバランス感覚がはぐくまれ、人間の器も広がるのです。

 禅には「一掃除、二信心」という言葉があるほど、徹底的に掃除をします。廊下はニスを塗ったようにピカピカに、庭はほうき目がしっかり立つように。最初は「なんでこんなことをやるんだ」と思いますが、やがて無心に体が動くようになってくる。空間が清らかになることで、心も清らかになり、立ち居振る舞いもきれいになるという相関関係があるのです。

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