金原:私は自由奔放に書いてきたほうだけど、社会的なテーマを据える時には熟考しますね。例えば『マザーズ』の時は新しい母性、新しい女性のあり方を表明しなければという使命感があったし、『持たざる者』のときは、ナイーブなテーマでもあったので、どういう立場の人がどういう読み方をするか、いろいろな角度から考えざるを得ず、途中何度も筆が止まりました。誰が何を考えるかは未知数だし、怖がってばかりいても仕方がないな、と吹っ切れ、その後の『軽薄』と『クラウドガール』は、小説の面白さを追求したいという一心で書きました。小説家として、原点に立ち戻れたような気がします。

●作家ってそういう認識

綿矢:『クラウドガール』は怖くて謎のある終わり方が面白かった。『蛇にピアス』を思い出してうれしくなりました。サスペンスの匂いがするというか。

金原:ラストはあえて明らかにしない、ということは最初から考えていました。むしろそこを追求しないという生き方の是非を問う話でもあって、人が得ている情報の脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにしたかったんです。

綿矢:子育てしながら、いつ書いてるの?

金原:私の子どもたちは今9歳と5歳なんだけど、フランスの幼稚園は朝の8時から4時までだから、割と余裕があるかな。朝は子どもたちでおのおのヨーグルトやパンを食べて、学校へは旦那が送って。私は深夜仕事、朝寝、昼頃起き出すというペース。だから仕事の環境はまあまあ整ってます。「ママのことは絶対にお昼すぎまで起こしちゃいけない」って、恐怖の法律がうちにはあるんで(笑)。フランスは、子育てしやすいですよ。シッターさんはすごく安いし、誰でも預けられる保育所がある。週2、3回くらいですが、生まれて数カ月くらいから、働いていてもいなくても預けられます。

綿矢:私は去年、保活にちょっと挑戦してみたけど、うまくいかなくて。仕事のときは主に夫やお義母さんに見てもらってる。いまも保育園の結果待ちだけど、在宅だと厳しい。書類をざーっと確認した担当者が「在宅ってことは家でお仕事されているんですよね? 子ども見ながらは難しいんですか」って。

金原:作家ってそういう認識か……って思うよね。

綿矢:もう泣きそうになっちゃった。在宅は絶対に弱い。

金原:私は第1子の時は新宿区だったんだけど、0歳枠はわりとあったみたいで入れたんだけど。1歳枠になると途端に……。

綿矢:えーっ! 困るよ。

金原:みんな復帰しちゃうからね。

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