わずかに工事業者が出入りするだけの豊洲市場はまるでゴーストタウン。空調設備の低い振動音だけが辺りに響いている(撮影/編集部・山口亮子)
わずかに工事業者が出入りするだけの豊洲市場はまるでゴーストタウン。空調設備の低い振動音だけが辺りに響いている(撮影/編集部・山口亮子)

 移転延期の間に築地・豊洲両市場の維持管理費や補償費用はかさむ一方。移転できないと市場会計破綻の可能性もあり、混迷は深まるばかりだ。

 築地市場からの移転が延期された豊洲市場の地下水調査で、有害なヒ素やベンゼン、シアン化合物が検出された。ベンゼンは最大で環境基準の79倍。シアン化合物は検出されないことが基準だ。ほとんどが基準値以下だった前回までの調査と大きく異なる結果に仲卸業者政丸の営業本部長・浦田喜久夫さん(57)はいらだちを隠せない。

「わけがわからない。問題が長引く間に、一部の生産者が豊洲への不安から築地を経由しなくなっていると肌で感じる」

●過去の調査に不信感

 この結果を受け、東京都は再調査を決定。専門家会議は採水方法の違いが影響した可能性を指摘した一方で、施設工事を行う共同企業体(JV)が過去に数回、調査を請け負っていたため「いい加減な調査だったのでは」とみる市場関係者も多い。

 今回初めて検出されたシアン化合物とはどういう物質なのか。

 薬物中毒に詳しい筑波大学名誉教授の内藤裕史さんによると、シアン化合物はメッキなどに使うため、工場跡地で検出され得る物質という。もともと豊洲の敷地は東京ガスの工場もあった場所。内藤さんはこう指摘する。

「シアン化合物は酸性のものと接すると猛毒の青酸ガスになる。これが地震などの影響で地上に拡散する可能性がある」

 そもそも豊洲市場の建設費は大半を築地市場跡地の売却収入でまかなう見込みだった。だが今回の結果では延期していた移転そのものが怪しくなりかねない。元都副知事で、明治大学公共政策大学院特任教授の青山やすしさんは移転できない際のリスクをこう説明する。

「築地の売却ができないと、独立採算が原則の市場会計が成り立たない。政治的判断で一般会計から補填もあり得るが、それは都民の税金でまかなうということ。支持を得られるのか」

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