●6千億円強が廃墟に

 期待感もすっかり失望に変わった。豊洲の発展を見込んで進出予定だった温泉施設は着工を先送り。場内に約75億円を投じて大型冷蔵庫を整備したホウスイ専務の中島廣さん(68)も落胆を隠せない。

「日本一、いや世界一の水産中央卸売市場ができるということで、かなり先を見越した投資をしたが、肩すかし。がっかりしている」

 冷蔵庫は空の状態だが機能維持にマイナス10度で管理するため、電気代だけで月に約200万円、都に支払う借地料は月300万円以上にのぼる。都との補償協議中だが、今回の一件には呆れるばかりだ。中島さんは言う。

「都は豊洲に6千億円弱、加えて我々のような民間業者も合計300億円ほど投資をしている。もし移転できなくなったら、6千億円強が廃墟になる。大変な無駄遣いですね」

 両市場を維持するコストも積み上がる一方だ。豊洲市場の維持管理費は、現状で1日あたり503万円。築地は2015年度は1日あたり431万円がかかっていた。移転延期が続けば、両市場であわせて900万円強が日々かかることになる。

 移転すれば負担が軽くなるのか。都は、豊洲を開場した場合の維持管理費が1日2100万円と築地の5倍近くになると試算。両市場を維持する現状に比べても倍以上だ。長年、移転問題を取材するジャーナリストの池上正樹さんは「コスト的にはいま無駄が出ているわけではない。安全・安心の担保ができる環境が整うかをみる期間だと考えればいいのでは」とする。

 では築地市場の再整備の場合は、どのくらい費用がかかるのか。95年に都が実施した試算では3400億円。10年に当時の民主党都議の提案をもとに都が見積もった金額は1430億~1780億円だ。ただ諸々値上がっており、この額は膨らむ可能性のほうが高い。

 知事サイドは大がかりな再整備ではなく、補修や耐震補強で対応する案も練っているとか。だが改修となっても豊洲の整備費問題が頭をもたげる。進むも退くも地獄の築地はどこへ向かうのか。(編集部・山口亮子)

AERA 2017年1月30日号