企画・販売するすべての商品は、売り上げの一部が「フェリシモの基金」に積み立てられる。

「動物の殺処分問題を何とかしたいという思いが猫部のベースにあり、基金で動物愛護団体を支援しています」と松本さんは話す。積み立てた基金は、保護活動や里親探しの活動、野良ネコの過剰繁殖防止活動などをしている全国の動物愛護団体へ寄付される。顧客は商品を購入することで、活動を間接的に手助けできるという仕組みだ。

 猫基金以外にも地域のボランティア団体と協力した譲渡会の開催、寄付活動への呼びかけにも力を入れている。

 もともとフェリシモには基金事務局があり、毎月1口100円から国内外の植林活動を支援する「フェリシモの森基金」をつくったり、途上国支援をしたりと、CSRが盛んだった。さらにイヌやネコなどの保護活動のための「フェリシモ わんにゃん基金」をはじめ、「猫基金」にも連なるこれらの活動に取り組むようになった背景には、11年の東日本大震災がある。

●背景に東日本大震災

 発生から間もなく、さまざまな理由で被災地に取り残されたイヌやネコたちの実態が報じられるようになった。

「原発の避難区域内に残されたペットたちは、餓死してしまったり、たとえ保護されても飼い主が見つからなかったりと、大変な状況に置かれていました。そんな時に『フェリシモさん、もっと支援できませんか?』というお客さまのお声を猫部にも多数いただいたんです」(松本さん)

 多くの活動は、フェリシモのこうした企業風土の中から生まれたものなのだろう。

 さて、冒頭に紹介した譲渡会の様子に戻ろう。

 希望者は、1人3匹まで希望の猫をアンケート用紙に記入。そのあとは里親希望者、猫の保護者と神戸猫ネットスタッフの3者で面談をし、人にもネコにも望ましい関係が築けるかをヒアリングする。後日ボランティアスタッフが希望者の自宅まで保護ネコを届け、1~2週間のお試し期間、「トライアル」を過ごし、問題なければ正式な譲渡となる。

 ある40代男性は、小学校低学年の娘と妻とで初参加。

「ネコを飼いたいと思ってネットで調べていたところ、この活動を知りました。同じ飼うなら、ペットショップなどでなく、こういう形で支援ができたらいいなと思ったんです」

 保護ネコという言葉からこれまで抱いていたイメージに反し、きれいにケアされたネコばかりで驚いたという。

「安心して選ぶことができました」

 西宮市から訪れた60代夫妻は、

「とてもよい活動ですよね。保護主さんのお話をうかがうと、責任を持って里親になりたいと思いました」

 今回は2匹のネコを譲り受けたいとエントリーした。

「よくがんばりました」

 神戸市内で野良ネコが増えたのは、1995年の阪神・淡路大震災の影響が大きいという。

「不妊手術をしていなかった家ネコが震災で外へ逃げたり、仮設住宅では飼えない、と捨てられたりしたんです」

 神戸猫ネット理事長の杉野千恵子さんは話す。過去22回の譲渡会で、計200匹以上が新しい家族のもとに引き取られていった。

「新しい飼い主さんが見つかると、またほかの野良ネコを保護できるようになります。一匹でも多くの命が救われ、終生幸せに暮らしてほしい」(杉野さん)

 フェリシモ猫部のブログに掲載される譲渡会報告には、いつもこの文言がある。

「みんなよくがんばりましたね」

 厳しい環境で生き延びてきたネコたち。この日の譲渡会では18匹がトライアルに向かい、新しい家族との暮らしに向けて、一歩を踏み出した。(ライター・いなだ みほ)

AERA 2016年12月19日号