「もはや自分の仕事を探すのが仕事です。以前の職場は明らかに過重労働でしたが、現場の意見を吸い上げる社風で風通しはよく、やりがいはあった。前職より収入も上がり、休日出勤すれば代休は必ず取り、有休は月1回取得しています。けれど、ものを言えない環境が、こんなにつらいとは思いませんでした」
センター試験から新方式に移行する2020年度の大学入試改革に向け、大学側の課題は山積みのはずだ。ここ数年の志願者数減もシビアだと思う。
「10年待てば裁量を持てるとも考えますが、10年先、ウチはないかもしれない」
男性は、違う大学への転職を考えている。
「オープンキャンパス向けに研究成果をわかりやすくまとめるパンフレットや展示を作ったり、プレスリリースやホームページの情報を更新したり、毎日充実しています」
と言うのは、国立大学の研究所の広報を務める男性(33)だ。
元はマスコミ勤務だったが、科学コミュニケーションに関心があり、この職場にたどり着いた。ただし、3年という任期付きの雇用だ。
●ノウハウ蓄積できない
残業時間は平均すれば月30時間程度だが、忙しい時期は日付をまたいで仕事をし、50時間を超える月もある。残業が増えると、注意を受ける。
「年間6回を超えると、『偉い人が見に来るので超えないでね』と言われました。今年、僕が受けた注意は4回。仕事が減らなければ残業時間が減るわけがないのですが、『短く申告しろ』という圧力はありませんし、残業代も全額支給されています」
待遇には不満はないが、疑問は感じている。研究機関にとって重要な役割を果たすはずの広報が、なぜ任期付きなのか
不便を実感したこともある。前任者との引き継ぎは、実質1日だけ。あとは、前任者が残したA4判10ページ分のリポートだけが頼りだった。
「昨年の同じイベントがどんな状況だったのか、書面だけではわからないこともある。3年間の蓄積が、人員交代によってゼロになってしまうのは、無駄だしもったいないです。正規で雇用するのが理想的だと思いますが、せめて任期をずらして2人に増やしてもらうことはできないのか」
定時上がりで、定年まで雇用が安定していて、給料も比較的高い。そんな大学職員のイメージも、時代の流れとともに昔話になりつつあるようだ。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2016年12月19日号