──特に好きなシーンは?

のん:すずさんが「広島に帰る」と言った当日にお掃除をしているシーンです。径子さんが縫い物をしていて、お尻をどけてもらうために後ろで待っている。径子さんにはいつも怒られているのだけど、そこはわりあいすんなりどけてくれて、その「すんなり」がすごく家族の感じがするんです。ほんとうは2人とも広島に行きたくない、行ってほしくない、ということが伝わってきました。

──原作の絵の魅力をあらためてのんさんの言葉で語っていただくと?

のん:こうの先生の絵を見ていると、すずさんは今まさにそこで生活している、ということをすごくリアルに感じることができます。ページとページの間、コマとコマの間がすんなりとイメージできる。そこに確かに人間がいる、という感触、エネルギーが素晴らしいです。

──これから映画をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

のん:普通の生活がていねいに描かれ、普通ということの幸せが感じられる映画です。生きることの力強さに心が満たされていく作品だと思うので、そこを感じていただけたらと思います。

(構成/ライター・北條一浩)

AERA 2016年11月28日号