スコセッシ:30~40分ほどの短い時間でしたが、真剣に小説に向き合いたいとお伝えし、周作さんからはとてもポジティブな反応をいただきました。すでにエージェントが出版社と契約交渉を進めていたと思います。

遠藤:父が亡くなった96年には、映画の契約の原型のようなものがありました。本契約ではなく、1年ごとに更新するオプションの契約。いつクランクインするかわからなかったので、そうなっていたんだと思います。

スコセッシ いいえ、それは脚本が未完成だったからです。私も制作を急ぎはしませんでしたが、そうこうしているうちに法律上の問題が起こって訴訟になってしまった。マネジャーとエージェントから年中、「本当にまだやるの?」と聞かれました。「やりたい」と言うと「脚本書いてないじゃないか」と突っ込まれました。

遠藤:ご苦労があったのですね。

●とにかく撮りたくて

スコセッシ:映画化の権利があちこち動いたので、追いかけるのに時間がかかりました。「シャッターアイランド」や「アビエイター」「ヒューゴの不思議な発明」の撮影現場では、私が「『沈黙』はどうなってる?」と追いかけられた。みんな「無理だろう」という気持ちで、制作をやめるよう説得しようとしていた。結局、27年ほどかかってしまいました。

遠藤:私のところにも、「『サイレンス』はなかなかうまくいかないようだよ」とか「ハリウッドのプロデューサーたちが反対しているようだ」などという話が聞こえてきたので、正直、どうなるのかなと思っていた時期もありました。諦めなかったのはなぜですか。

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