「脚本ととことん向き合って、考え抜いて演じる。キャラクターと声優が一体となるまで追求する、そんな役者でした」(南沢さん)

「ドカベン」の殿馬はどこまでも飄々と。「キテレツ大百科」の刈野勉三の独特の訛り口調は、肝付さんのアイデアだという。

 どんなに声を張る芝居を続けても、丸一日アフレコしても、のどを潰したりからしたりしたところを、見せたことがなかった。

 そんな肝付さんが最後まで情熱を燃やしていたのが、舞台だった。自身が主宰する「劇団21世紀FOX」ではワークショップなども精力的に開き、後進の育成にも力を注いだ。

 時代は移り、声優はアイドルになった。舞台に立つ人もいるが、歌にダンスに、活動の場を広げる声優も多い。

「テレビで肝付さんの声を聞いていた人たちが、人気漫画家になったり、人気声優になったり。みんな、彼ら世代が築き上げてくれたアニメに育ててもらって、いまがあるんです」(南沢さん)

 プライベートでは、いつも笑顔で、気遣いの人だった。「ドラえもん」ののび太役で共演した小原乃梨子さんは、

「たくさんの作品で共演しましたが、ユニークな役作りと同時に、スタッフにもキャストにも細かな心遣いを忘れず、いつも笑いの中心にいて、みんな大好きな方でした」と悼んだ。

 昨年亡くなったジャイアン役のたてかべ和也さんとは公私にわたり親交が深かった。葬儀で、肝付さんはたてかべさんの遺影に語りかけた。

「君は、僕の自慢の親友です。友達でいてくれて、本当にありがとう。ジャイアーン!」

 南沢さんは話す。

「私も同じことを言いたいですね。長い間、たくさんの夢と笑顔をありがとうございました。キモさん!」

(ライター・浅野裕見子)

AERA 2016年11月7日号