右肩上がりの薬剤費を抑える三つの秘策 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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右肩上がりの薬剤費を抑える三つの秘策

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塚崎朝子AERA#健康
高齢の両親のおくすり手帳を見て、処方されている種類と量に驚く人は多い。「残薬」による無駄の温床とも指摘されている(撮影/写真部・岸本絢)

高齢の両親のおくすり手帳を見て、処方されている種類と量に驚く人は多い。「残薬」による無駄の温床とも指摘されている(撮影/写真部・岸本絢)

医師から出される処方薬の効能の進化や改善は、価格とのバランスも考え合わせなければならない段階に入っている(撮影/写真部・岸本絢)

医師から出される処方薬の効能の進化や改善は、価格とのバランスも考え合わせなければならない段階に入っている(撮影/写真部・岸本絢)

薬代を含む診療費は、高額になればなるほど自己負担を上回る公費が投入されており、保険医療の窮迫は見えないところで進んでいる(撮影/写真部・岸本絢)

薬代を含む診療費は、高額になればなるほど自己負担を上回る公費が投入されており、保険医療の窮迫は見えないところで進んでいる(撮影/写真部・岸本絢)

 年間40兆円を超える国民医療費のうち、約2割を占めるのが薬剤費。医療費全体を上回るペースで伸びている。放置して大丈夫か。

 宇都宮市にある国立病院機構栃木医療センターで内科医長を務める矢吹拓さんがこの日訪れたのは、畑違いの整形外科病棟。骨折で入院した80代の患者に、こう声をかけた。

「血圧が100を切っていますね。お薬が効いているようですが、あまり下げすぎても転ぶ危険があるので、ちょっと減らしてみましょうか」

 矢吹さんはこのとき、「ポリファーマシー外来」での役割を果たしていた。2015年1月に全国で初めてつくられたチームだ。ポリファーマシーは、英語で「多くの」を意味するpolyと、「薬」のpharmacyを組み合わせた造語で、高齢者を中心に社会問題化している多剤投与を防ぐのが目的だ。

●「多剤」に苦しむ高齢者

 同センターに1週間以上入院する見込みで、5種類以上の内服薬を処方されている高齢者(65歳以上)の中から希望者が受診できる。5種類を超えると、組み合わせの問題などでふらつき、認知機能の低下などが生じやすいとされるためだ。

 時には複数にわたるセンター内外の主治医から情報提供を受けたうえで、チームの内科医たちが、入院中の患者の病歴や診察所見、検査値などと照らし合わせながら、本当に必要な薬はどれか、整理していく。

 きっかけは14年。口腔疾患で入院した高齢の患者が、入院1週間後からふらつき、転倒、食欲低下、さらに意識障害を起こし、院内で亡くなった。この患者は、日常的に生活習慣病を中心に14種類の薬を飲んでいたが、入院後に抗菌薬も加わった。死因はある薬の中毒だと分かった。医師や薬剤師、看護師だけでなく、事務職員も参加して再発防止を図るチームができた。

 ポリファーマシー外来では、週に2回、1人の患者に30分~1時間ほどかけて、じっくり話を聞く。1日に2人をみるのが精いっぱいだ。開設後1年間に受診した47人で、受診前の平均9種類を5種類に減らすことができた。全員で削減できた薬剤費は年間約900万円。1人当たり20万円近くに上る。最も多く削減できたのは睡眠薬だった。

 ただ、入院中の規則正しい生活や減塩、カロリー計算された食事といった環境変化が、血圧や血糖値の正常化につながった面も考えられる。矢吹さんは、「生活習慣を整えれば、薬を減らせるという“成功体験”を積んでもらうことも有用」という。「退院後、環境や生活習慣が元に戻れば、元の薬が必要になるかもしれない」とも伝えるようにしているという。

 多剤問題は、単純に薬剤費が膨らむだけでなく、多剤になることによって飲み残し(残薬)が増えるという側面もある。日本薬剤師会の推計によると、在宅の75歳以上の高齢者だけで、残薬は年間およそ475億円分に上る。


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