裁判官3人が全員男性だったことが判決(写真)に影響したという見方もあるが、問題の本質はジェンダーではない。自分が何と呼ばれるのか、決める権利を奪われた者の苦しみは放置されていいのだろうか(撮影/写真部・小原雄輝)
裁判官3人が全員男性だったことが判決(写真)に影響したという見方もあるが、問題の本質はジェンダーではない。自分が何と呼ばれるのか、決める権利を奪われた者の苦しみは放置されていいのだろうか(撮影/写真部・小原雄輝)

 東京地裁が10月11日に下した「旧姓使用はダメ」の判決。最高裁は昨年、「旧姓を通称で使えれば不利益は緩和される」と夫婦別姓を認めなかったのに。

 東京地裁(小野瀬厚裁判長)のある判決が波紋を広げている。

 10月11日、同地裁は、

「旧姓を戸籍姓と同じように使うことが社会に根付いているとまでは言えない」

 として、「職場で旧姓使用を認められないのは人格権侵害だ」と勤務先を訴えた30代の女性教諭の訴えを棄却した。

 彼女の職場は、私立の中高一貫校「日本大学第三中学・高校」(東京都町田市)。女性教諭は、運営する学校法人「日本大学第三学園」に、旧姓使用と約120万円の損害賠償を求めていた。

●「合理性」はどちらに

「この判決には最高裁も困惑しているのではないでしょうか」

 そう指摘するのは、二宮周平・立命館大学法学部教授(家族法)だ。

 昨年、別姓を認めない民法の規定を「合憲」と判断した最高裁は、改姓する側がアイデンティティーの喪失感など不利益を被ることを認めつつ、「それを緩和する手段として、通称使用が広がっており、夫婦同姓制がただちに違憲とは言えない」としていた。

「地裁判決は、合憲判断の前提だった通称使用を『社会的に受け入れられていない』と真っ向から否定した。最高裁からすれば、選択的夫婦別姓を認めよと言われているようなものでしょう」(二宮教授)

 判決が注目を集める理由はもう一つ。氏名の「個人識別機能」だ。判決は、

「戸籍姓は、戸籍制度という公証制度に支えられており、旧姓より高い個人識別機能がある」

 として、こう結論づけた。

「職場という集団の中で、戸籍姓の使用を求めることには合理性、必要性が認められる」

 確かに、給与や税金、社会保障の手続きでは、戸籍姓のほうが識別性が高く、混乱を避けられるだろう。しかし、結婚前から勤務し「旧姓」で個人が識別されている職場で、同僚にとっても生徒にとってもなじみがないであろう「新姓=戸籍姓」を使うことに、本当に合理性があるのだろうか。

 女性は、指導要録や時間割、通知表などでも戸籍姓の使用を求められていた。新学期の担任発表の場でも戸籍姓で呼ばれ、

「先ほどは◯◯(戸籍姓)と呼ばれましたが、私は◯◯(旧姓)です」

 と名乗り直していた。生徒も旧姓で呼んでいたという。

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