●法律が認めていれば

 そこまでして戸籍姓を使わなければならない理由は何か。

 同学園の高瀬英久常務理事に尋ねると、

教育現場が法に従うのは当然でしょう。生徒にうそはつけない。現行法で戸籍姓が正しい名前である以上、学校ではそれを使うべきだと考えています」

 一方で高瀬氏は、こんな本音も漏らした。

「今回の裁判は、『個人のアイデンティティーvs.学校のアイデンティティー』という構図になってしまった。でも、別姓を認める法律があれば、こんな戦いをせずに済んだはずです」

 実際、世の中は確実に旧姓使用拡大に動いている。

 企業しかり、官公庁しかり。学校現場しかりで、日大や同大の他の系列校でも、旧姓使用を可としている学校がほとんどだ。

 今年5月には政府も、住民票やマイナンバーカード(個人番号カード)に結婚前の旧姓を併記できるようにする方針を示した。すでにパスポートでは、条件付きながら旧姓併記が認められている。

「個人の識別性において戸籍姓が優れているという常識そのものが通用しなくなりつつある」(二宮教授)

 この大いなる矛盾に、司法はどう対応するのか。

 もし、近い将来、選択的夫婦別姓が実現したら、別姓賛成派の怒りをたぎらせた今回の判決は、司法の矛盾を世間に知らしめたという意味で「評価」するべきものになるのかもしれない。(編集部・石臥薫子)

AERA 2016年10月24日号