「フロリダ州などが陥落したら、トランプは必要とする270人の選挙人獲得まで、あと6人だけということになる」と、クリントン陣営から支持者に切羽詰まったメールが届いた。

 トランプがなぜ、そんなに強いのか。

 討論会に先立つ9月22日、激戦州ペンシルベニア州チェスターで開かれた彼の集会に行った。チェスターの住民は7割以上がアフリカ系で、市財政は貧しく、貧困層が多い地域だ。記者は、トランプに批判的な人々が集会に集まるのだろうと見込んでいた。

●トランプ支える“熱狂”

 しかし、現地に着くと、参加者の99%以上が労働者階級の白人と従来の支持者ばかり。ところが、トランプは、目の前の白人の波に対し、貧しいアフリカ系やヒスパニック系有権者のために書かれた演説原稿を棒読みしている。その彼の姿をカメラに収めようと、ステージ前に支持者が殺到するという異様な光景だった。

 お揃いのグリーンのTシャツを着た10代のボランティアらも顔を紅潮させて、会場をくまなく歩きまわり、さらなるボランティアの勧誘をしていた。以前の彼の集会では見なかった光景だ。

「ボランティアになると、大学に行く推薦状を書いてくれると言われた」「自営業の父親が、トランプの本を愛読していて、本物のビジネスマンだと思う」

 と、ボランティアの動機は、あまり政策とは関係がない。しかし、クリントン集会では見ない盛り上がりだ。そこでは、トランプの演説の柔軟性のなさや、事実と違うことの伝達は気にもせず、クリントンやオバマ民主党政権への誹謗を心待ちにしている有権者ばかりがいた。

 主要メディアが躍起になって伝えるクリントンの適格性や実績は、彼らの耳には届かない。そこが、デッドヒートの行方を読みにくくしている。(文中敬称略)(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2016年10月10日号