PD-1の働きを阻害する小野薬品工業のオプジーボは14年、世界に先駆けて日本で発売された。また、CTLA-4阻害薬ヤーボイは、米ブリストル・マイヤーズスクイブが11年に実用化した。当初は、皮膚がんの一種である悪性黒色腫のみの適応だったが、その後、肺がんを追加。免疫の活性化を促せばがんの種類を問わずに効く可能性もあり、今後も適応となるがんの種類は追加される見込みだ。

 免疫療法では様々な薬の開発が進められており、3大療法に続く“第4の治療法”と期待を集める。従来の抗がん剤のような副作用はなく、耐性の問題もない。

 ただ、元気になった免疫系が自分の細胞を広く攻撃するという副作用があり得るほか、臨床現場では「いつまで使い続ければいいかが分からない」という疑問も聞かれる。免疫チェックポイント阻害薬は、1カ月の薬剤費が数百万円に及ぶ。オプジーボなどで効果が得られる患者は、単独服用の場合2~3割とされ、あらかじめ効果のある人の選別や、やめ時を判断するためのバイオマーカー(血液中などの指標になる物質)の開発が欠かせない。

 河上裕・慶應義塾大学教授は、「がん免疫療法は、精密な診断の上、患者やがん細胞の状態の差を考慮した『個別化治療』へと向かわなくてはならない。それには、遺伝子情報を始めとするビッグデータの解析が不可欠だ」と語る。

 この分野では米国が大きく先んじており、官民の大型プロジェクトが始動している。米国立がん研究所(NCI)は、月面探索を模して名づけた「米国がんムーンショット・イニシアチブ」に注力。グーグルは、がん患者のネットワーク構築とビッグデータ解析によって、がん免疫療法への貢献を模索する。

 一方、日本では新たな視点から、免疫療法の効果を向上させようという試みも進む。

●日本人も開発に貢献

 がん細胞では、「制御性T細胞(Tレグ)」と呼ばれる細胞が過剰になって、がんを攻撃する免疫系の機能を低下させることも分かってきた。Tレグを発見したのは、坂口志文・大阪大学特任教授。ポテリジオという薬に、Tレグを減らす作用があることも突き止めた。

 ポテリジオは、愛知医科大学の上田龍三教授が協和発酵キリンと共同で、成人T細胞白血病の治療薬として開発。薬としての実績がある。目下、ポテリジオを固形がんの治療に用いる治験を進めており、Tレグの減少とともにがんが縮小する効果も表れている。

「薬でTレグを減らして免疫反応を上げた後に、ワクチンを使う。あるいは攻撃する免疫細胞のお尻をたたく薬を使う。それぞれは10%しか効かなくても、三つ合わせれば60%に効くかもしれない。これからのがん免疫療法は組み合わせによって、大きく進む」(坂口氏)

 新たなステージに入ったがん免疫療法に、日本人の英知が貢献する日も近そうだ。(ジャーナリスト・塚崎朝子)

AERA 2016年7月11日号