山口はつらくなると纏足(てんそく)の展示を見に行った。苦しさを伴ってまで美を追求する姿勢に、自らを鼓舞したのだ。感性を磨くための読書、映画鑑賞、観劇は膨大な量だったという。憂い、恍惚、挑発……見る者を惹きつけてやまないあの表情の裏には多大な努力があった。

●日の丸を背負う気持ち

 山口は「美」と同じくらい「日本」にこだわった。イヴ・サンローラン、ヴァレンティノ、ジャンポール・ゴルチエなど世界のトップブランドのステージに立っても、プライベートでは日本ブランドの洋服を着て、海外の高級ブランドに興味を示すことはなかったという。

「日の丸を背負っているという気持ちもどこかにあったのかもしれない。でもそこに民族性にとらわれるような悲壮感はないんですよね。日本の西欧化がすすんでいく中で、自分が本当に大切にしたいものは何か、模索した末に確固たるものを見つけたんだと思います。そういえば、リオ五輪の閉会式で流れた日本を紹介するVTRに出てくる女性のほとんどが黒髪で前髪ぱっつん、切れ長の目なんですよ。小夜子さんが築いたジャパンビューティーが受け継がれていて、すごく嬉しくなりました」(同)

 美しさの価値観にも多様性が必要だ。パリコレのランウェーを日本人形のような山口が歩いてもいいし、ミス・ワールド日本代表がインド人と日本人のダブルだって素敵じゃないか。「まわりからどう思われるか」なんて気にすることはないのだと、山口の生き方は教えてくれる。(編集部・竹下郁子)

AERA 2016年10月3日号