都会に残る路面電車! 都電荒川線vs.阪堺電車/都電荒川線(上)と阪堺電車(下)は、いずれも市民の足としていまなお現役。沿線には風情ある地名が多い (c)朝日新聞社
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都会に残る路面電車! 都電荒川線vs.阪堺電車/都電荒川線(上)と阪堺電車(下)は、いずれも市民の足としていまなお現役。沿線には風情ある地名が多い (c)朝日新聞社

 鉄道大国・ニッポンの各地には、個性豊かな路線や駅がある。『AERA 2016年9月26日号』では、乗客の生活と、運行を支える技術が手を携えて発展を遂げてきた鉄道のさまざまな姿を、東西対決で特集。ここでは東西の路面電車対決を紹介する。

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 かつては東京の街中に都電の路線網が張り巡らされていたが、高度成長期を境に大半が廃止され、現存するのは荒川線のみだ。荒川線は、もともと明治末の1911年、王子電気軌道が大塚~飛鳥山上間に開業したのが始まりで、戦時中に当時の東京市が買収して公営となった。

 12.2キロにおよぶその路線には、面影橋、鬼子母神前、庚申塚、飛鳥山、野前など風情のある地名が並ぶ。沿線風景もどこか昔をしのばせ、そのせいか、山田太一氏脚本のドラマ「男たちの旅路 シルバーシート」(77年)や山田洋次監督の「息子」(91年)など多くの映像作品でもとりあげられてきた。

 一方、大阪府内に残る唯一の路面電車、「阪堺(はんかい)電車」と通称される阪堺電気軌道もたびたび映像作品に登場してきた。今年には堺市民参加のオムニバスドラマ「阪堺電車」が公開され、現在堺市のホームページで視聴可能だ。

 阪堺電車はその名のとおり大阪市と堺市にまたがって運行されている。路線は馬車鉄道をルーツとする上町線と、旧阪堺電気軌道が建設した阪堺線の二つ、営業距離は計18.5キロにわたる。1915年に南海に買収され、80年に分離・独立した。

 その沿線には、住吉大社や千利休生家跡など多くの名所旧跡を擁する。阪堺線の大阪市側のターミナルである恵美須町は、通天閣の最寄り駅だ。車窓からは、2014年に全面開業した高さ日本一のビル・あべのハルカスとあわせて新旧の大阪のシンボルが眺められる。

 現役最古の車両は戦前の1928年の製造で、先のドラマにも登場する。降車ボタンを押すとチンチンという音が鳴るが、これは新しい車両でも変わらない。音ひとつとっても阪堺電車のアイデンティティーとして残そうという気構えを感じる。(ライター・近藤正高)

AERA 2016年9月26日号