【黒板×プロジェクター×スマホ】コクリで投影した図をベースに板書すると「時短」になる。問題を解く間もタイマーを表示できるため、残り時間を意識できる(撮影/写真部・加藤夏子)
【黒板×プロジェクター×スマホ】
コクリで投影した図をベースに板書すると「時短」になる。問題を解く間もタイマーを表示できるため、残り時間を意識できる(撮影/写真部・加藤夏子)
サカワ常務取締役 坂和寿忠さん(30)/自称「あまのじゃく」タイプだからこそ、新しいアイデアが生まれる。中学時代は「野球帽をかぶったことがない」野球部員だった(撮影/写真部・岸本絢)
サカワ常務取締役 坂和寿忠さん(30)/自称「あまのじゃく」タイプだからこそ、新しいアイデアが生まれる。中学時代は「野球帽をかぶったことがない」野球部員だった(撮影/写真部・岸本絢)
右からカヤック技術部・西崎悠馬さん、デザイナー・中森源さん、技術部・佐々木晴也さん、企画部・楠瀬薫子さん(撮影/写真部・岸本絢)
右からカヤック技術部・西崎悠馬さん、デザイナー・中森源さん、技術部・佐々木晴也さん、企画部・楠瀬薫子さん(撮影/写真部・岸本絢)
【お菓子×プログラミング×スマホ】プログラミングの基本「CONDITIONALITY(条件付けのコードの実行)」や「LOOPS(繰り返し処理)」などを学べる(写真提供:江崎グリコ)
【お菓子×プログラミング×スマホ】
プログラミングの基本「CONDITIONALITY(条件付けのコードの実行)」や「LOOPS(繰り返し処理)」などを学べる(写真提供:江崎グリコ)
江崎グリコマーケティング本部 玉井博久さん(36)/プログラミングという発想は、創業者の江崎利一の言葉「食べることと遊ぶことは子どもの二大天職である」がヒントになった(撮影/写真部・岸本絢)
江崎グリコマーケティング本部 玉井博久さん(36)/プログラミングという発想は、創業者の江崎利一の言葉「食べることと遊ぶことは子どもの二大天職である」がヒントになった(撮影/写真部・岸本絢)
菓子を組み合わせて自由にプログラミングする 江崎グリコ提供(左上)
菓子を組み合わせて自由にプログラミングする 江崎グリコ提供(左上)
【タクシー×ファブリーズ×スマホ】「ファブタクのアイコンを作る際、デザイナーと協議してユーザーが違和感なく使える大きさの設定にこだわりました」(金さん)/JapanTaxi CMO(最高マーケティング責任者) 金高恩さん(左、39)/JapanTaxi CTO(最高技術責任者)/岩田和宏さん(右、37) (撮影/今村拓馬)
【タクシー×ファブリーズ×スマホ】
「ファブタクのアイコンを作る際、デザイナーと協議してユーザーが違和感なく使える大きさの設定にこだわりました」(金さん)/JapanTaxi CMO(最高マーケティング責任者) 金高恩さん(左、39)/JapanTaxi CTO(最高技術責任者)/岩田和宏さん(右、37) (撮影/今村拓馬)
日本交通のタクシー全3500台が期間限定でファブタクに変身。他の1万台は、取り組みに賛同する全国のタクシー会社が参画している(撮影/今村拓馬)
日本交通のタクシー全3500台が期間限定でファブタクに変身。他の1万台は、取り組みに賛同する全国のタクシー会社が参画している(撮影/今村拓馬)

 連絡は「LINE」、待ち合わせ場所までは「グーグルマップ」……。気づけばアプリは我々の生活に浸透し、もはや手放せない存在だ。2020年には10兆円と予測されるアプリ市場。これからのアプリとは。

 スマホのアプリを活用し、既存の商品やサービスに付加価値を付け、売り上げを伸ばす老舗企業が現れ始めた。少子高齢化で国内市場が縮小する中、アプリが新たな市場を生んでいる。キーワードは“再生”だ。

 夏休みも終わりに近づいた8月26日。皇居近くの私立共立女子高等学校の夏期講習では、高校3年生の理系女子生徒8人が物理のクラスを受講していた。理科専任教師・桑子研さん(35)は、タブレットで生徒のノートをパシャリと撮影。すると、黒板をスクリーンにしてそのノートが映し出された。その時間わずか3秒。板書することなく、生徒のノートを生徒全員で共有しながら授業が進む。

 これはコクリという黒板専用アプリ。チョークで板書する従来の授業の風景は変わらない。だが、先生がスマホやタブレットで操作すると、画像や動画が瞬時に黒板に映し出される。

「手描きした図をスキャナーでPDF化して、iPadに入れたデータを今日の授業で使いました」

 桑子さんはコクリを使用し始めてから授業の密度が上がったと言う。板書に時間がかかる図やグラフはあらかじめ作成しておき、ドロップボックスなどでウェブ上に保存。そこからコクリにデータを取り込むと、授業中に何度でも気軽にスマホから黒板に映し出すことができる。まるで、未来の教室のようだ。

●送料込み10万円の衝撃

 内閣府の消費動向調査によると、2016年3月時点でスマホの普及率は67.4%となった。7月に配信されたポケモンGOは8月現在1億3千万回以上ダウンロードされ、ギネス世界記録に登録された。公園に群衆が押し寄せたり、モバイルバッテリーの売り上げが伸びたりと、アプリという仮想の存在が、現実世界の人々の行動に影響をもたらしている。もはや、スマホはインフラ化し、日常生活において手放せなくなっている。

「スマホはパソコンとは異なり、24時間365日持ち歩くIT機器です。カメラや音楽、位置情報も搭載しているため、伝統的なアナログ企業でも、その機能を通じて新しいことを生み出せる時代になりました」

 ITジャーナリストの三上洋さん(51)はそう話す。

 コクリを手がけたのは、大正8年創業の黒板メーカー・サカワ。愛媛県で100年近く黒板を作り続けてきた、いわば地方の無名企業だが、今や業界内で一目置かれる存在になっている。

 黒板作りは各県に根を下ろす地場産業だ。かつては営業上、暗黙の「縄張り」があったが年々売り上げが苦しくなり、互いの領域を侵し始めたことで業界内の調和に亀裂が入っていった。

 以前は150社ほどあった黒板会社は現在3分の1以下まで減少。少子化に加えて、差別化が難しいため価格競争が起こり、販売価格は下がっていった。1枚30万円前後だった販売価格は、送料・取り付け工事込みで10万円ほどにまで下がっている。

「長さ3メートル強、重さ数十キロの黒板をトラックに積んで輸送して、学校の階段を上って、設置してたった10万円……。それを知ったときは正直、愕然としました」

 そう話すのはコクリの発案者であり、サカワ常務取締役の坂和寿忠さん(30)。将来は5代目社長になる予定だ。父親には「黒板」という名前を本気でつけられそうになったほど、生まれた時から「継ぐ宿命だった」。

●黒板の仕事を断る

 大学卒業後の09年、東京支店の「支店長」になった。

「入社してまずやったことは、黒板屋なのに『黒板の仕事を断る』ことでした」

 工場は愛媛県にあるため、東京で受注が入っても、輸送費などを負担すると利益を出せない。

 このままでは、衰退の道をたどるだけ……。

 コクリ開発のきっかけとなったのは、政府が09年に導入を後押しした電子黒板。電子黒板は、操作が難しいため、使われないまま放置されることがほとんどだった。

「これまでの黒板の良さを残したまま、デジタルと融合した、手軽に使える黒板を作りたい!」

 しかし、技術的な知識はゼロ。そこで協力を求めたのがベンチャー企業のカヤック(神奈川)だった。ウェブの問い合わせフォームから、新しい黒板のアイデアを綴った長文メールを送った。すると意外にも二つ返事でOK。メール送信から3日後にはカヤックを訪問していた。

教育の基盤作り目指す

 当時のカヤックチームは5人。技術部の西崎悠馬さん(34)が言う。

「とっつきやすさが先生に刺さっているのだと思います」

 コクリに必要なのは、既定のバージョン以上のiOS製品(iPadなど)とプロジェクター、ケーブル、アップルTVの四つ。プロジェクターはどのメーカーのものでも使用できる。学校にiPadなどがある場合、初期投資に必要な金額は、アップルTVの約9千円と、コクリ月額600円でトータル1万円だけ。10万円ほどする電子黒板と比較すると、価格面でもハードルは下がる。

 ダウンロード数は1万2千に達した。コクリの収益は17年までに会社全体の3割程度まで増えると考えている。今後は需要が高い写真や実験器具などのスタンプをもっと増やしたり、全国の先生が個人アカウントを作成してお互いにコミュニケーションが取れたり、教材や知識の共有ができたりする“教育のプラットフォーム化”を目指していく予定だ。

 アプリで認知度が上がったことで、黒板の売り上げも相乗的に伸びている。

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