すぐ後にベネチアやトロントが控えるため、ロカルノは過去の映画の回顧特集と先鋭的な新作の二つを大きな柱にして特徴を出している。83年には成瀬巳喜男の回顧上映を企画。成瀬を黒澤明、溝口健二、小津安二郎に次ぐ「第4の巨匠」として世界に定着させたことで知られる。

 映画祭ディレクターのカルロ・シャトリアン氏は会見で「今年は、前衛的で、詩的・政治的で、予言的でありながら時代に流されない映画を守ることで評判を築いたロカルノの精神に戻った」と語った。

●「頂点の一本」と仏紙絶賛

 最高賞の金豹賞と女優賞をとったのは、ブルガリアのラリッツァ・ペトロバ監督の「ゴッドレス」。老人介護に携わる女性の犯罪を克明に描いたもので、世界共通の問題をえぐり出した。この監督を含めて、コンペ17本のうち、8本の監督が女性(男女の共同監督の2本を含む)というのも、カンヌなどではありえない。

 今回受賞の邦画3本も、まさにロカルノの精神に合致する。3人の監督がみな2度目のロカルノ出品なのも、新人を発掘して見守る映画祭らしい。

 仏リベラシオン紙は、「富田の映画は正式な賞は逃したが、ジョアン・ペドロ・ロドリゲスの『鳥類学者』(最優秀監督賞を受賞)と並んで今年の頂点の一本」と書いた。

 今回のロカルノは、カンヌなどに出るタイプとは異なる邦画の新しい可能性を感じさせるとともに、東京も含めた世界のほかの映画祭が学ぶべきことを指し示した。(日本大学芸術学部教授・古賀太)

AERA 2016年9月5日号