名物の大広場での夜の野外上映を待つ人たち。欧州最大級の野外スクリーンには8千人、映画祭全体では16万人を超す観客が集まった(撮影/古賀太)
名物の大広場での夜の野外上映を待つ人たち。欧州最大級の野外スクリーンには8千人、映画祭全体では16万人を超す観客が集まった(撮影/古賀太)

 今年のスイス・ロカルノ国際映画祭は、出品した日本人監督3人全員が賞を受けた。「快挙」の裏側を探ってみると……。

 カンヌと同じ1946年に始まったロカルノ国際映画祭は、若手映画監督の登竜門として世界的な注目を集める。

 今年は8月3~13日に開催され、国際コンペ部門で富田克也監督の「バンコクナイツ」と塩田明彦監督の「風に濡れた女」が、映画祭公式の賞ではないものの、18~22歳の映画ファンから選ばれた審査員による1等と3等をそれぞれ受賞。若手コンペ部門では、真利子哲也監督の「ディストラクション・ベイビーズ」に新鋭監督賞が贈られた。

 この1年、日本映画は海外で苦戦していた。昨年9月のベネチアから今年2月のベルリン、5月のカンヌ、8月末開幕のベネチアまで、コンペの顔ぶれに邦画は一本もない。実は3作品とも、内容的には相当に「ヤバい」映画だが、出品させるだけでなく、賞まで出すとは驚いた。

●ロマンポルノも復活

 日本では来年2月公開の「バンコクナイツ」は、タイ・バンコクの日本人向け売春宿に生きるタイ人女性とそこに群がる日本人を描く。元自衛隊員(富田監督が主演)と1番人気のタイ人女性の恋愛を軸にして、世界を覆うグローバリズムを裏側からとらえた力作で、4年の製作期間を感じさせる生々しさが全編を覆う。

 今冬公開の「風に濡れた女」は、70年代に花開いた日活ロマンポルノを現代によみがえらせた日活製作の一本。愛と性の不条理を軽やかにユーモアあふれるセリフと演出で描き、会場は盛り上がった。さらに今回の映画祭では、神代辰巳監督の名作「恋人たちは濡れた」(73年)も特別上映するという念の入れよう。併せて見ると、2作品がつながっているのがよくわかる。

 上映中の「ディストラクション・ベイビーズ」は、暴力への衝動に憑かれた不気味な若者を柳楽優弥が演じた。

 ロカルノはマッジョーレ湖畔にある保養地で、夏は観光客でごった返す。名物は、夜9時半の野外上映。観光客も関係者と一緒に映画を楽しめる。

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