東京商工会議所が会員企業に4月にアンケートしたところ、災害時に外部の帰宅困難者を受け入れることは難しいと答えた企業が73%にのぼった。困難な理由は「受け入れるスペースがない」(52%)、「外部の帰宅困難者用の水・食料の備えがない」(25%)など。

 そもそも従業員用の飲料水・食料・トイレなどの備蓄がある企業も半分に満たない状況で、さらに外部からの受け入れは荷が重いようだ。災害時に外部の帰宅困難者を受け入れて、大きな余震などでけがを負わせたりすると損害賠償責任を問われる可能性があり、それも妨げとなっている。

●4割が「帰宅」呼びかけ

 周辺のベッドタウンから都心に長距離・長時間かけて通勤通学し、昼間に人口が集中する東京。関東大震災当時とは都市構造が大きく異なっている。

 1980年代から「帰宅困難」の問題が認識されはじめたが、当初は帰宅支援が対策の中心。無理に帰宅しようとすれば群衆事故や火災に巻き込まれたり、渋滞が救助活動の妨げになったりすることから、中央防災会議が「帰宅させない」に方針を変えたのは08年だ。それが十分周知されないまま東日本大震災を迎えた。3月11日当日、従業員に「原則として帰宅するように呼びかけた」企業は首都圏で約36%もあった。

 帰宅困難者が、新しい形の都市災害を引き起こさないようにするための対策は、まだまだ途上のようである。(ジャーナリスト・添田孝史)

AERA 2016年9月5日号