「たとえば『死者の脳を取り出して記憶を映像化する』というのが、作品の重要なアイデアですが、実写にする場合は、マンガよりも現実的な検証が求められます。マンガならば、脳を取り出して、そこに装置をつけても読者は納得できるけれど、実写で撮る場合は、体から取り出した時点で、脳は死んでしまうんじゃないの?といった、リアルな問題が気になってしまう。そうした疑問が生まれると、映画の世界に入っていけないので、自分自身が納得できる方法を模索せざるをえない。映画では死者の脳は体ごと保存して、見る側の脳にも刺激を与えるような装置を考えました。リアリティーに固執するわけではなく、映像化した時に、観ている人が違和感を持たないようにはしておきたいんです」

●俳優が演じる意味

 少女マンガの登場人物を演じるのは、実力がある俳優にとってもハードルが高い。原作が人気作品であればあるほど、読者の脳内に、それぞれの好みでカスタマイズされたキャラクター像があるのだから、どんな俳優が演じても、何かしらの不満は出てくるだろう。

 今回、主役の薪剛を演じた生田斗真は、ストレスフルな役を見事に演じている。

「薪を社会的な存在としてみると、警察という巨大組織で要職に就く人間には、それなりの説得力が必要で、それはNHKに属していた自分の経験からも譲れない点でした。そもそも、35歳で少女のように見える有能な男は、現実にはいません(笑)。とはいえ原作の世界観は大事にしたいと考えたとき、生田斗真君はピッタリだと思った。彼は美しいけれど、俳優としていろいろな監督にもまれてきた“太さ”があるので、若くして第九の室長を任された男にふさわしい。同時に原作にある『小柄』という点は反映させようと、第九のメンバーは大柄な役者をそろえて、靴でも高さを出したり、ジャケットに肩パッドを入れて、相対的に生田君を小柄に見せるような工夫はしています」

 その他、新人捜査官・青木を演じるのは岡田将生、薪の亡くなった親友・鈴木を松坂桃李、生前の鈴木の恋人を栗山千明が演じている。

 主役を張れる俳優が勢揃いしたビジュアルは、少女マンガ的だといえよう。

「原作には最大のリスペクトを払いますが、必ずしも原作通りに撮るのが良いとは限らない。原作者が表現しようとしたことを、どうすくい上げていくかが大事で、絵面(えづら)の問題ではないと思っています」

 物語が進むにつれ、見られる側の「秘密」から、それを見た主人公たちの「秘密」へと、問題が錯綜していく。まるで観客自身に、「あなたはどう考えますか」と、問いかけるように。

「映画にはいろいろな効能がありますが、その一つに、『観る前と世界が変わって見える』ことがある。作品によって効果が続く時間が変わりますが、『秘密』について言えば、世界が違って見える効能が、けっこう長くもつように作れたと思います」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2016年8月29日号