尖閣諸島周辺の接続水域に展開している中国公船は通常3隻程度。通常4~5隻と言われる南シナ海のスカボロー礁周辺と比べても、「尖閣諸島周辺には、はるかに多くの中国公船が展開している」と、政府は現状が異常である点を強調している。

 中国側には、中国公船が漁船保護などの名目で領海侵入を既成事実化させることで、尖閣諸島の領有権を国際社会にアピールする思惑があるとされている。

●連絡メカニズムが重要

 実際はどうなのか。

 京都産業大学の岩本誠吾教授(国際法)はこう解説する。

「法に基づいて多国間で解決するよりも、二国間で力による解決を図ろうとしています。今の尖閣諸島への中国の猛アタックも、法に関係なく日本の譲歩を得るまで継続すると思われます」

 中国は南シナ海の主権をめぐる仲裁裁判所の判決を「無効」と一蹴する声明を発表したように国際法を否定する面もある。尖閣諸島の領有権問題も、中国は国際司法裁判所を利用せず、国家の力がもろに反映する外交交渉で解決しようとする。そして、交渉相手の譲歩が得られなければ交渉を中断する。こうした中国外交の典型が「海空連絡メカニズム」の協議だと、岩本教授は指摘する。

 連絡メカニズムは、不測の軍事衝突が起きるのを防ぐため、防衛当局間で緊急時に連絡を取り合う枠組みだ。日中両政府はシステム構築では合意したが、運用は暗礁に乗り上げている。

 ネックは連絡メカニズムの適用範囲だ。日中双方の領海・領空には適用しないよう求める日本側に対し、中国側は尖閣諸島周辺の日本領海と領空も含めるよう求めている。

 日本は1993年10月にロシアと「海上事故防止協定」を締結したが、この際も双方の領海・領空は適用範囲に含んでいない。同協定で日本は北方領土の領有権の主張はするが、実効支配しているロシアに対して自衛艦や自衛隊機を北方領土の領海・領空内で運用させようとは考えていない。

 一方、中国は実効支配していない尖閣諸島の領海・領空内で運用することに固執しているのは明白だと日本側は警戒している。

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