これらの新たな需要が生まれることに伴い、もうかった企業が社員の給料を上げて消費が盛り上がるなどすれば、五輪と関係ない分野の需要も増える。都はこうした間接的な効果も含む経済波及効果を2兆9609億円とはじいた。一般に「経済効果」と呼ばれる数字だ。だが、これがまるまる日本の経済規模を示すGDPの増加分ということにはならない。都によると、経済効果のうち名目GDPの増加分は1兆4210億円。15年度の名目GDP(約500兆円)をもとにすると、13~20年の累計でもほんの0.3%ほどだ。

●焼け石に水の五輪効果

 これは経済効果の範囲を比較的狭くとった試算と言われる。民間シンクタンクや日本銀行は軒並み、より大きな効果を見込んでいる。五輪開催決定に伴うイメージアップなどで来日する外国人が増え、ホテルの建設も増える。鉄道や道路といったインフラ整備が前倒しされる。「五輪景気」を当て込んで民間の都市再開発事業も盛んになる──。こんな予想に基づく。ただ、民間3機関の試算を見ると、経済効果は6兆7780億~60兆円と差は大きい。

「実際には五輪開催による効果だけを厳密に区別するのはきわめて難しい。試算結果については十分な幅を持って見る必要があります」(みずほ総合研究所の矢野和彦主席エコノミスト)

 とはいえGDP押し上げ効果は、今回紹介したなかで最も大きいみずほ総研の試算でも、7年間の累計で15年度の名目GDPの6%弱にすぎない。

 これらの試算に盛り込まれていない「マイナス効果」にも要注意だ。たとえばテレビや五輪関連グッズの消費が盛り上がっても、家計の総収入が増えなければ代わりにほかの分野の消費が減るおそれがある。建設業で人手不足が深刻化するなか、ある再開発事業が進む代わりに別の事業が遅れるかもしれない。

 そもそも日本経済の実力が落ちている。経済がふつうに推移した場合の“巡航速度”と言える潜在成長率は、少子高齢化などで0%台前半に落ち込んでいる、という見方が目立つ。多少の上乗せでは焼け石に水だ。

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