宋歌さん(右)とパートナーの姜小妹さんはともにフリーのライター。同性愛カップルとして、心穏やかな日々を送っている(撮影/金順姫)
宋歌さん(右)とパートナーの姜小妹さんはともにフリーのライター。同性愛カップルとして、心穏やかな日々を送っている(撮影/金順姫)
結婚式でキスをする孫文麟さん(右)と胡明亮さん。会場は幸せな雰囲気に包まれ、2人は多くの来場者から記念写真をせがまれた(撮影/金順姫)
結婚式でキスをする孫文麟さん(右)と胡明亮さん。会場は幸せな雰囲気に包まれ、2人は多くの来場者から記念写真をせがまれた(撮影/金順姫)

 人が人を愛すのに、政治制度は関係ない。人権の制限がみられる中国でも、愛情に突き動かされた人々を従来の家族観で抑え込むのは難しくなっている。

 スーツに蝶ネクタイ姿の男性2人がしっかりと手をつないで登場した。抱き合ってキスすると、客席から一斉に、写真を撮ろうとスマホが向けられた。

 5月17日、中国・湖南省長沙市で、ある結婚式が開かれた。主役は、長沙に住む孫文麟さん(27)と胡明亮さん(36)。「同性婚を認めるよう当局を相手に訴えた中国初の裁判」を起こした男性カップルだ。

 中国各地から駆けつけた男女が、レインボーカラーの小旗を振って祝福した。その多くは、自身も同性愛者。孫さんは「全世界に中国にも同性愛が存在することを知ってほしい」と語りかけた。

●提訴は「当たり前の要求」

 孫さんが同性愛を意識したのは中学に入る少し前。ネットで男性と女性の裸の写真を見た。女性には何の感慨もわかず、関心がいったのは男性だった。

 2014年6月、ネットを介して胡さんと知り合う。その日から同居を始めると、孫さんは自分自身のことをまったく理解していなかったことに気づく。「外に心を閉ざし、誰とも一緒に生きていくつもりはなかった。でも彼と出会い、自分も人といたわり合えることを知った」

 交際から1年の記念日。結婚の手続きのため地元の民政局を訪れたが、拒まれた。同性婚の手続きをするよう裁判所から民政局に命じてほしいと、昨年12月に提訴した。「僕たちを勇敢だと言う人がいるけど、そうは思わない。当たり前の要求をしただけ」(孫さん)

 長沙の裁判所は今年4月、訴えを退けた。「一夫一妻、男女平等の婚姻制度を実施する」との文言がある婚姻法などが、結婚を男女間のものと明確に規定しており、「男性2人による結婚は法規に合致しない」と判断。6月の二審でも判断は覆らず、敗訴が決まった。

 それでも孫さんは「男女間にしか結婚が認められないという論理は誤り。裁判には負けたが、これからも同性愛者の権利を主張していきたい」と意気盛んだ。

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