「この範囲内におさめなければ、健康的かつ衛生的な状態だとは言えない、という法律としての上限です。決して推奨する値ではない、と書いてあるんです」(田辺教授)

 それがいつの間にか、いちばん上の数字だけが抜き取られ、広められたという。

 さらに勘違いされがちなのが、空調の設定温度を28度にすればよいという思い込みだ。本来は、室温を28度に、の意味である。空調の種類によって、温度の測定の仕方は異なる。壁のセンサーで計測するもの、空調機に戻ってきた空気の温度を計測するもの。空調はその温度を設定に近づけるように動くため、実際に人がいる地点の温度とずれることがままある。外からの熱を受ければ天井や壁の温度は上がるため、最上階、窓際など室内の場所によっても体感温度にムラが出る。

●室温上昇で生産性低下

 また、同じ「室温28度」であっても、実際に人が感じる暑さはさまざまだ。室温、つまり空気温度以外にも、人間の体と周囲の環境の熱バランスには五つの要素がかかわっている。個人の代謝量、着衣量、湿度、気流の有無や速度、天井や床の表面温度といった要素だ。汗が蒸発しやすい条件が重なれば体を冷やす効果も高まる。つまり、暑い28度もあれば、涼しい28度もあるのだ。

「室温として一般的なオフィスで推奨されるのは26度。画一的な28度には僕はずっと反対しています」

 と田辺教授。

 そのひとつめの根拠が、知的生産性の観点だ。

 グラフは、田辺教授らが04年に行ったコールセンターでの調査の結果だ。約100人のオペレーターが扱った年間1万3169人分のコールデータを対象に、室内環境と生産性の関係を分析した。

 結果からは、室温が上がると平均応答数が低下する、つまり生産性が下がることがわかった。25度から28度に上がると6%も生産性が低下した。落ちた生産性を残業でカバーしようとすれば、そのぶん電力消費がかさむ上に、エネルギーコストよりもずっと高くつく人件費のコストが上乗せされる。

 また、省エネで快適に過ごすという観点から、田辺教授は、空調よりも照明による節電効果を挙げる。従来、日本のオフィスでは机上の明るさは750ルクスが標準と言われていた。

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