もはや亜熱帯となった日本だが、「節電」が叫ばれて久しい。オフィスの「28度設定」はすっかり定着してしまった。そもそもどうして「28度」なのか。
夏になると、日本中のオフィスでいっせいにこんなメールが飛び交う。
「夏季期間中は室内温度を28度になるように設定します。社内ではノーネクタイ、ノー上着を奨励。お客様と接する場合の服装は適切な状況判断を」
「クールビズのお知らせ」はもはや日本の夏の風物詩。「軽装で失礼します」といった来客向けのポスターもよく目にする。
2005年に発効した京都議定書で義務づけられた温室効果ガス削減のため、環境省が「クールビズ」の号令をかけた。
大平正芳内閣が1979年に提唱した夏の軽装キャンペーン「省エネルック」は定着しなかったものの、温暖化やヒートアイランド現象で年々夏の暑さが耐え難いものになる中、クールビズはすっかり定番に。さらに、東日本大震災が起きたことも、大きな一因となった。原子力発電所が停止し、「電気が足りなくなる」という懸念が温暖化よりも目前に迫った。全国的に「節電」が叫ばれた結果、「夏のエアコンは28度」はいつの間にかすっかり共通認識として定着した。
でも、あまりに暑い日、外出先からオフィスに戻ってきてなかなか汗がひかなかったりすると、恨めしく思うこと、ありませんか?
●根拠は約50年前の研究
リモコンを手にすれば、「28」の数字が頭にちらつき、それより設定温度を下げるのはなんとなく罪悪感を覚える。そんな「エコストレス」もイライラをさらに募らせる。
そもそも、「28度」という数字はどこから出てきたのか。
政府広報オンラインによれば、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(通称・ビル管理法)及び「労働安全衛生法の事務所衛生基準規則」で定められた室温の範囲が17度から28度とある。
ではなぜそう定められたのか。建築環境学を専門とする早稲田大学理工学術院の田辺新一教授に聞いた。田辺教授によれば、この法律のもとになった研究があるという。66年の厚生科学研究「ビルディングの環境衛生基準に関する研究」(小林陽太郎)だ。この研究の中で根拠とされ引用された研究はさらに古く、戦前から60年前後にかけてのもの。ここに、許容限度の上限として28度という数字が登場する。ヒートアイランドなどという言葉も一般的ではなく、オフィスにはまだパソコンもない時代だ。