日銀は15年、新たに発行された国債の総額にほぼ匹敵する膨大な量を買い入れており、「18年には市場に出回る国債が足りなくなる」という民間予測もある。日銀は今年1月、国債の購入量を増やさずに済む緩和策として「マイナス金利政策」の導入を決めたが、目立った効果は出ていない。首相の経済ブレーンを務める米エール大学の浜田宏一名誉教授でさえ、3月の本誌インタビューで異次元緩和の現状をこう表現した。

「強いクスリを使っても、だんだん効かなくなっていく」

 折れた第1の矢に代わり、第2の矢を前面に押し立てようとしている。これが今のアベノミクスの姿だ。しかし、すでに説明した通り、財政出動の効果は疑わしい。

 安倍政権は発足直後の13年1月、国の補正予算に盛り込んだ10兆円余りを元手とする緊急経済対策を発表。その後も税収が増えた分を財政出動に回すなどしてきたが、為替相場や株価を大きく動かした異次元緩和に比べればあくまでも脇役だった。

●今の低成長率は健闘との見方も

 そもそも財政出動や金融緩和は、今の日本にとって正しい処方箋なのか。慶應義塾大学の池尾和人教授はこう指摘する。

「財政出動と金融緩和の本質は将来の需要の前借りです。先々にわたって需要を増やすことはできません」

 国が借金して財政出動をすると今を生きる世代にお金を回せるが、返済負担が増えて将来の支出を削らなければならなくなる。金融緩和によって世の中の金利水準が下がり、物価が上がっていけば「いま借金してでもお金を使う方が得だ」と思う人が増えるが、その分、将来使えるお金は減る。いずれも、日本経済自体を持続的に大きくしていく力はない。

 だからこそ本来、財政出動や金融緩和は急場しのぎの対策と位置付けられている。海外経済の急激な悪化といったアクシデントによって、景気が経済の「実力」に見合わない水準に落ち込んだ時、失業や倒産の急増を防ぐために用いるのが常道だ。

 経済がふつうの状態で推移した場合の「実力」と言える成長率を潜在成長率と呼ぶ。働き手が減り、新興国の激しい追い上げを受ける日本の潜在成長率は、日銀や内閣府の試算でさえ0%台前半。ゼロと見る民間シンクタンクもある。日本の成長率の実績は低迷しているが、潜在成長率を踏まえれば「健闘している」という見方もできる。

 日本経済の停滞の真犯人は、消費増税や海外経済の悪化といった一時的な要因ではなく、実力そのものの低下である以上、財政出動や金融緩和といったカンフル剤を打ち込んでも効果が限られるのは当たり前だ。それだけではない。深刻な副作用まである。

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