西東京市では昨年9月に6億円分が発行された。市民へのアンケートによると、使い道の7割弱は「通常の買い物」。大半は「商品券がなければしなかったはずの消費」を生み出さなかったことになる。

 市では過去にも、国の経済対策や市の独自事業として同様の商品券が発行された。外部の有識者も交えた検討の末、市が自腹で手がける事業としては13年度を最後に廃止した。市の文書には理由がこう記されている。

「市内商工業の魅力増進や本来的な競争力強化につながるものではなく、継続的に実施することにより(消費)刺激策としての効果も低下する」

 経済専門家の見方もおおむね冷ややかだ。ふだんの買い物の支払いをプレミアム付き商品券で済ませ、浮いたお金が貯蓄に回れば消費を押し上げる効果はゼロ。買い物を前倒しする人が増えても、その反動で将来の消費は減る。みずほ総合研究所はこうした要素を取り除き、プレミアム付きの商品券や旅行券で正味の消費は640億円増える、とはじいた。国が投じた費用の4分の1にとどまる計算だ。

●五輪前で人手不足公共事業にも疑問

 公共事業についても効果を疑問視する向きが多い。恩恵を受ける建設・素材といった産業が日本経済に占めるウェートは下がり、景気押し上げ効果は以前より小さくなった。

 加えて、東日本大震災の復興事業や東京五輪に向けた工事が集中して人手不足が深刻化し、工費も高騰。発注者の国や自治体が示す価格などの条件が業者と折り合わず、入札が不調に終わる事例も相次ぐ。多額の予算をつけても順調に消化できるかは怪しい。

 アベノミクスとは何だったのか。日本銀行が市場をお金でじゃぶじゃぶにする「異次元の金融緩和」(第1の矢)と、財政出動(第2の矢)によって景気を押し上げて時間を稼ぐ。その間に規制緩和などで企業がビジネスしやすい環境を整え(第3の矢)、中長期的な経済成長を促す。これが基本戦略だった。

 最も効果を上げたのは、首相が日銀総裁に据えた黒田東彦氏の就任直後の13年4月に始まった異次元緩和だ。日銀は今、民間金融機関から政府の借金証文である国債を年80兆円ものペースで買い増して代金を流し込み、世の中のマネーの量を増やそうとしている。これによって日本円の価値は下がり、海外で稼ぐ大企業を中心に円換算した利益が改善した。株価は15年4月、15年ぶりに2万円台を回復。失業率は下がり雇用も増えた。

 それでも、全体として見れば日本経済は低迷したままだ。実質国内総生産(GDP)の成長率は13~15年の平均でわずか0.6%。特に個人消費の低迷が目立つ。異次元緩和による円安が、輸入される製品や原材料の価格上昇を招き、食料品や日用品の幅広い値上げにつながったことが大きい。増えた働き口は低賃金の非正規雇用が大半。働き手の賃金の伸びも物価上昇のペースに追い付かない。

 最近は為替相場が円高に振れる場面が目立ち、株価も停滞している。欧州や中国の経済に対する不安に加え、アベノミクスの肝である異次元緩和が限界に達しつつあるという見方が強まっているからだ。

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