●「秋田モデル」で5割減

 都道府県ごとの自殺率を見ると、15年は秋田県が26.8人で最も多く、島根県(25.1人)、新潟県(24.9人)、宮崎県(24.5人)、岩手県と山梨県(ともに24.4人)と続いた。順位は毎年変わるが、東北、山陰、南九州、北陸地方が上位に並ぶ傾向が浮かぶ。

「上位の県は、フル規格の新幹線が走行していなかったり、整備が遅かったりした地域という共通点があるのではないか」

 そう「新幹線仮説」を唱えるのは、自殺総合対策推進センター(東京都小平市)の本橋豊センター長(公衆衛生学)だ。新幹線の整備状況は地域のどんな事情を反映しているのか。

「経済的な発展が遅れ、過疎化や高齢化が進んでいる。産業が乏しく、失業率が高くなることで平均所得も低くなり、経済的な困難を抱えやすいという構造的な問題があると思います」

 本橋さんは、14年まで20年近く秋田大学医学部で教授を務め、行政や民間団体とともに自殺対策を進めてきた。その取り組みは「秋田モデル」と呼ばれ、対象となった町は、取り組み前に比べて自殺者数を5割近く減らすことに成功した。

 政府の自殺総合対策大綱などによると、自殺を図った人の多くがうつ病などの精神疾患を患っていた。本橋さんは、うつ病の早期発見・早期治療をめざすネットワークづくりにも取り組んだ。力を入れたのは相談体制の充実、予防意識の啓発、コミュニティーづくりなどだった。

「自殺する方の多くは、その直前にうつ的な状態になっているが、経済的な問題や家族間でのトラブルを解決しなければ、治療薬を飲んでも根本的な解決にはならない。住民が直面している社会的な問題を解決するため、気軽に相談できたり、周囲に助けを求めたりできることが大切だと考えました」(本橋さん)

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