最終的には理研が、14年12月に公表した「検証結果」で、小保方氏らの方法では「STAP現象」なるものは観察されなかったと報告。その直後、理研の「第二次調査委員会」が、STAP細胞とされたものは、既存のES細胞と遺伝学的に同じであると確認した。また、ネイチャー論文にはさらに2点の研究不正があると認定したが、合計4点の研究不正は「氷山の一角」にすぎず、ほかにも不正がありうることも示唆した。

 ただ、検証期間中にネイチャー論文の共著者が自殺。論文は撤回された。ES細胞の混入が意図的なのか、意図的だとしたら誰が何のためにやったのかなど、現在も多くの謎が残る。

 そんな中、理研を退職した小保方氏が手記『あの日』を出版したのが今年1月。3月には「STAP HOPE PAGE」というウェブサイトを開設し、理研での「検証」におけるものと称するグラフや写真を公表し、少しずつ「反論」に転じてきた。

 とはいえ、これらにも疑惑が残る。例えば、サイトに掲載されたグラフの一つについて、筆者が理研に元のデータがあるか問い合わせたところ、理研広報室は4月5日、「一致するものはありません」と回答した。写真の中にも、疑いを指摘する人もいる。

 小保方氏がネイチャー論文で最低4点の図表を捏造・改ざんしたことは、前述のように理研も認めている。これまでの流言が「根拠」に挙げた論文や報告書には、捏造・改ざんを覆す要素はない。したがって小保方氏や共同研究者、理研の名誉回復にはまったくつながらない。

 小保方氏は『あの日』の中で、理研に指摘された研究不正2点については反論しているものの、「知らなかった」「不注意」などの内容にとどまっている。さらに、残る2点については何も述べていない。今回の対談でもその姿勢は変わっていない。

 STAP細胞問題はそもそも、研究不正の問題だったはずだ。しかし、14年4月の小保方氏の会見では、「STAP細胞はあります」と答えた氏の姿ばかりがクローズアップされ、問題が再現性の有無にすり替わった。その混乱は今も続いている。

 この問題を、小保方氏個人の問題にしてはならない。メディアに今、求められるのは、科学に詳しくない普通の読者をミスリードしかねない記事ではなく、問題の本質を追究しつづける態度ではないか。(サイエンスライター・粥川準二)

AERA 2016年6月13日号