米政府の広島訪問決断にあたり、日本政府は「米側が決めること」(菅義偉官房長官)と受け身の姿勢を貫いた。米政府は、米世論が今回の訪問を「謝罪」と受け止め、反発することを警戒していた。日本政府は静かに見守ることで、決断を支えた。

 原爆投下に対する謝罪を求めないことは、戦後日本の一貫した態度といえる。15年8月、安倍政権は民主党(当時)議員の質問主意書に答える形で、米国に謝罪を求めない方針を示した答弁書を閣議決定している。

「国民である被爆者の尊厳を守ることは政府の責務。だからこそ、日本政府は米国に謝罪を求めなければならない」

 戦後日本のあり方に関する論考が多数ある文芸評論家の加藤典洋氏はそう指摘する。謝罪要求をテコに日本政府が大統領の被爆地訪問を促すなど、主体的に外交をリードできる可能性もあったと加藤氏はみるが、

「被爆国であることに立脚して平和を武器に向かうという外交のカードを、最初から捨てていた。全くの傍観者だった。これまでの日米関係で、日本が独自の外交哲学を持たずにきたことの表れではないか」

(アエラ編集部)

AERA 2016年5月23日号より抜粋