大きな転機となったのは、村上隆や奈良美智、草間彌生などの日本人アーティストが、世界でその名をとどろかせるようになった2000年前後だろう。

「ここから日本の現代アートは変わった。グローバル化が進み、世界を舞台に活躍する作家が増えていきましたね」

 そう話すのはギャラリー「スカイザバスハウス」のオーナー白石正美さんだ。

「今はその次の世代や、5年前の東日本大震災に大きく影響された次の次の世代も育っています。グローバル化はさらに進み、もはや『日本だ』『海外だ』と意識して活動している作家のほうが少なくなった印象です」

 こうして世界標準の作家が育つと同時に、日本のギャラリーの活動も活発になっていった。

 90年代から、有名ギャラリーが一堂に会して、現代アート作品を紹介するアートフェアがあちこちで開かれるようになり、現代アートをコンテンツにしたイベントも増えた。

 教科書クラスの巨匠の展覧会に大挙して押し寄せ、作品を神妙な顔で「鑑賞」する人たちとは明らかに違う、新世代の美術好きも生まれている模様だ。

 現代アートと聞いただけで「むずかしい」と身構えた旧世代とは対照的に、新世代はてらいがない。「かわいい!」だの「何これ!」だの、またまた嫉妬してしまいそうなほど自由に、作品に接している。実はこれが、現代アートの正しい楽しみ方。再び、白石さんが言う。

「作品を前にした自分が、どう感じたか、何を思ったか。そこから自分が見えてくるのが、現代アートのおもしろさです。作り手も受け手も、自由に発信して自由に受け取る。だからこそおもしろいんですよね」 

 同じ時代を生きる作家が作るリアルタイムの作品だから、それを介した気持ちのキャッチボールもしやすい。(ライター・福光恵)

AERA 2016年5月16日号より抜粋