「映画は政治の道具ではない」(※イメージ)
「映画は政治の道具ではない」(※イメージ)

 イスラエル占領下のパレスチナが舞台。秘密警察の策謀が若者たちの友情や愛を引き裂く悲惨な物語を、サスペンス映画のように巧みなストーリー展開で見せていく。

 中東で紛争やテロが激化する中、問題の根源であるパレスチナから人々の怒りと絶望の核をえぐり出すような映画が届いた。「オマールの壁」だ。

 監督は、自爆攻撃に向かう若者たちを描いた「パラダイス・ナウ」で2006年にアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたパレスチナ人のハニ・アブ・アサド。今回の映画で14年に2度目の同賞候補となった。

 主人公のオマールは、2人の幼なじみとともにパレスチナの武装組織に属する。恋人のナディアと結婚するためにパン屋で働いてお金をため、アパートも用意している。だが、オマールと陽気な2人の男たちの友情も、恋人との将来も、オマールらがイスラエル軍陣地を襲撃し、兵士を殺害することで暗転する。

 オマールはイスラエルの秘密警察に捕らえられ、取り調べでは全裸で拷問を受ける。秘密警察の捜査官からイスラエルの協力者になれば釈放されると誘われ、裏をかくつもりで誘いに応じるオマール。映画では最後まで、捜査官との駆け引きが重要なモチーフとなっている。

 オマールは捜査官の話から友人の一人がスパイであることを知るのだが、町に戻ると、オマールこそがスパイだという話が広がっていて、ナディアも彼を疑っている。そしてイスラエルのスパイとなった友人に問いただすと、ナディアに「秘密」があることが明かされるのだ。

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