発作が起きたら、せっかく鍛え上げてきた体はゼロに戻り、そのシーズンを棒に振ってしまうことになる。僕は現役時代でも、発作後は10メートル走ったら5~10分休む、という練習から徐々に肺を慣らし、1~2カ月かけて体を元の状態に戻しました。

 二度と失敗はしたくないと思い、大学進学で上京するのを機に医師に相談すると、発作を起こさないように予防する薬を勧められました。吸入ステロイド剤を毎日使うと症状が安定し、発作は出ない。いつ発作が起きるかわからないという不安から解放され、密度の濃いトレーニングに打ち込めました。体調のピークをうまくつくることもでき、自信を持って試合に臨め、リレハンメル五輪に出場することができたんです。

 長野五輪の前は、とにかく風邪をひかないよう注意しました。ハウスダスト対策で、遠征の際にはホテルの部屋を掃除する道具も持参。金メダルを取ることができました。

 小さい頃は「僕はなんでこんなハンディキャップを背負っているんだろう」と悩んだこともありました。でも、今はぜんそくだったからオリンピックで金メダルが取れたと思っています。ぜんそくのおかげで、他の人より体の変化を敏感に感じ取れるようになったからです。これはアスリートにとって大きな強みです。(アエラ編集部)

AERA  2016年3月7日号より抜粋