「時間制約があるから十分な成果を出せないだろう、と思われた。気を使ってくれたのでしょうが、私は『もっと頑張りたいのに』と思いました」

 土佐さんはすぐに改善を要求。出産前と同様、成果に応じてボーナスが支給されるようになった。現在はフルタイムに戻ったが、子どものお迎えは土佐さんが行くため、残業はほとんどしない。それでも営業成績は2年連続でトップだという。

「育児中でも効率と工夫次第で成果は出せる。子育て中の働き方はそれぞれだが、私は過剰な配慮をするよりも、意欲を評価し、支援してほしい」

 多くの職場で働く女性が増えたが、働く姿勢は多様化している。資生堂も改革をした理由に、「美容部員間の不公平感を取り除くため」を挙げている。

 そんな中、資生堂の改革は、子育てを重視したいと思う人には、不安を感じる面もある。

 都内で働くシオリさん(41)は、母の手作りのおやつで育った。2人の子をもった今も家族との時間を大切にし、働きながらも「夕飯は子どもと食べる」ことをポリシーにする。

 以前は、大企業で宣伝やPRの仕事をこなしたが、いまは20人規模の会社に移り、時短勤務をする。仕事には一定のやりがいもあり、大きな不満はない。ただ、疑問がある。

「仕事と子育ての両立法が見えない」

 シオリさんはニューヨークで1年ほど生活したことがある。現地では、家庭をもつ女性も当たり前のように働いていた。

 かたや日本では、パートだと子育ての時間は確保できるものの、収入が少なく2人分の保育料を賄えない。また企業に勤めても、一般職ではこれまでの経験を生かせない。幸い、いまは総合職でのポジションを得たが、時短勤務の自分をフォローする同僚は終電まで働く。

 同僚に対しては罪悪感もあるが、「子どもと夕飯」だけは死守したい。育児と仕事の両立について、シオリさんはこう言う。

「子育て女性もキャリアアップというのは時代の流れかもしれませんが、私は『これが自分の働き方』と言うしかありません」

(文中カタカナ名は仮名)

AERA  2016年1月25日号より抜粋