前代未聞の要請を受け、金融界は戸惑ったが、全銀協会長だった宮崎邦次・第一勧業銀行(当時)頭取が業界をまとめた。企業献金で返済する、という口約束をもとに大手9行に割り振ったのである。ところが返済は滞る。小沢氏は自民党を離党し、93 年には細川政権が誕生。経団連は政治献金のあっせんをやめ、「後払い」の算段は狂った。

 後日、経緯を宮崎氏にただしたところ「永田町の自民党本部を担保に取った、と聞いている」という答えが返ってきた。登記簿を調べると自民党本部に抵当権は付いていない。それもそのはず、敷地は国有地である。「担保は付いていませんよ」と改めて問うと「抵当権は付けていないが、必要に応じて建物を担保に供出する約束になっている」と行員を介して返事があった。

 自民党本部の建物の資産価値は政治資金収支報告書に載っている。15億5230万円。150億円の借金に釣り合う金額ではない。ほかの主だった資産を調べると、自動車が8台。借金の担保になるような資産が自民党にはない。

「献金は借金棒引きに等しい」という指摘を佐藤会長にぶつけると「融資と献金は別物。見解の相違です」と答えた。

 献金は「企業の社会的責任」と言い、融資は「企業秘密」と逃げるのはなぜか。

「自民党に気を使わなければならない要因がもう一つある。郵便貯金の限度額です」

 金融関係者は打ち明ける。自民党では今、ゆうちょ銀行の預金限度額の引き上げが議論されている。6月に党総務会が「現行1千万円までの限度額を3千万円に引き上げる」という方向を打ち出し、金融界に衝撃が走った。

 銀行は長らく、政府をバックに全国に展開する郵便貯金と火花を散らしてきた。全銀協などは「絶対に認められない」とする共同声明を出した。

 限度額をどこまで拡大するかは、政府の委員会で検討されているが、最終的に政治判断になる。集票マシンとして強力なゆうちょを相手に、限度額を抑えたい銀行は押され気味。献金を断れない事情は、そのあたりにもあるという。

AERA  2015年12月14日号より抜粋