NHK杯が行われた長野市のビッグハットのキスアンドクライで、高得点に目を丸くする羽生。喜びを爆発させる様子にはまだ幼さも残る (c)朝日新聞社
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NHK杯が行われた長野市のビッグハットのキスアンドクライで、高得点に目を丸くする羽生。喜びを爆発させる様子にはまだ幼さも残る (c)朝日新聞社

 羽生結弦(はにゅうゆづる)が今季のグランプリ(GP)シリーズ最終戦NHK杯で驚異の世界最高得点を獲得した。ショートプログラム(SP)で106.33点をたたき出し、自身が2014年ソチ五輪で出したSP世界歴代最高101.45点を更新した。フリーを加算した総合得点では、322.40点という驚異的な高得点で世界最高得点を塗り替えた。この背景には何があったのか。

 SPの理由ははっきりしている。「後半に4回転」から「4回転2種類」に変更した作戦勝ちだ。

 五輪後の14年から羽生は、「五輪王者だからといって、このままではいたくない。進化し続けたい」と、得点が1.1倍になる演技後半の4回転にこだわってきた。昨季はケガや病気で1度しか挑戦できず、今季の初戦オータムクラシックとGPシリーズ初戦のスケートカナダでは後半の4回転をミスして弱気な発言。

「“後半”という概念にとらわれているのかも。まだ考えが足りない。自分の弱さがたくさん見えてまとめきれていない」

 転機はスケートカナダのエキシビションだった。世界記録保持者でスケートカナダを制した宿敵パトリック・チャンを前に「絶対に負けない」と、4回転サルコウを難しい跳び方で跳んだ。コーチのブライアン・オーサーは確信した。

「やはり結弦は勝ちたいという気持ちが強いモチベーションになる。サルコウの能力も十分だ」

 この後、師弟は相談して、NHK杯では「SPで4回転2種類」に挑戦することを決めたという。SPの「後半に4回転を1種類」の時の基礎点は、31.16点。「前半に4回転2種類」にした新構成だと34.45点。3点以上の増点になる。
 
 10点満点×5項目の演技構成点も、今季2戦では8点台後半~9点台前半だったが、NHK杯ではジャンプが決まったことで演技への感情移入ができ、「演技力」の項目が高評価の9.50点に。また、4回転ジャンプ2種類を成功させたことで、滑りの基礎が多彩にこなせているとみなされ、「スケート技術」の項目も9.39点になった。

 結果、SPは106.33点。

「いま自分ができる最高難度のショートをやりました。スケートカナダとは全く違うプログラムになった感じです」(羽生)

AERA  2015年12月14日号より抜粋