ジョナサン・ロー(26)2005~11年、陸軍「イラクはラブ・アンド・ヘイトだ」。イラク警察隊の訓練に当たり、警察隊や一般市民の家の食事に招かれた。「見たこともない食事、文化、すべてが美しかった」。一方で、PTSDなどの後遺症に苦しむ。それでも、l陸軍兵であったことは誇りだ(撮影/津山恵子)
ジョナサン・ロー(26)
2005~11年、陸軍
「イラクはラブ・アンド・ヘイトだ」。イラク警察隊の訓練に当たり、警察隊や一般市民の家の食事に招かれた。「見たこともない食事、文化、すべてが美しかった」。一方で、PTSDなどの後遺症に苦しむ。それでも、l陸軍兵であったことは誇りだ(撮影/津山恵子)

 人口3億人超に対し137万人という膨大な人数の軍隊を抱える米国。その軍人たちはリクルート活動によって集められる。ターゲットとなるのは、中間・低所得層だ。

 元陸軍兵ジョナサン・ロー(26)にとっては、ニューヨーク州北部の小さな街にある高校内に設置されていた陸軍と海兵隊のリクルートテーブルが、入隊への入り口となった。なかでも陸軍のリクルーターは、こう言った。

「大学にタダで行けますよ。入隊し、教育を受けて、さらに国に貢献することができます」

「すごいな!」とローは思った。移民の両親は、第1世代であるローに対し、「教育を受けること、自立した大人になること」が人生の目標だと叩き込み、プレッシャーをかけていた。それを一挙に解決してくれるのが、陸軍への入隊だった。
 
 2005年、陸軍の歩兵スナイパーとして入隊。08年から1年8カ月、イラクに駐屯した。到着してわずか2週間で、親しい仲間を失った。午前2時の暗闇での撃ち合いだった。その場面を思い出したのか、それまで笑みを絶やさなかったローが、突然涙目になり、「きつかった。今はコントロールすることができる」と自分をなだめるように言った。

 若い帰還兵の実態を知りたい──。知人の海兵隊退役軍人(48)に相談すると、「ニューヨークはだめだな。中西部や南部、オクラホマ州、テキサス州なんかがいいんだが」と言われた。ニューヨークの中心部マンハッタンは富裕層が圧倒的に多く、彼らにとってのサクセスストーリーは、高所得が保証される金融機関か弁護士事務所に入ること。軍人を目指す若者などまずいないからだ。

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