その一方で、米軍リクルーターが、中間・貧困層の若者に向けて「売り」にしている4点セットがある。

「大学、お金、旅、愛国心が手に入る、と言われた」

 元陸軍兵マーティン・スクロギンス(28)はそう説明する。

 大学卒業までの奨学金や生活費・ボーナスが保証される。国内外の基地に駐屯し、自費では行けない見知らぬ土地に行ける。そして一兵士として愛国心を高め、米国民を守るという使命を果たして家族や人々に尊敬される──。まさに中間・貧困層の若者にとっては「サクセスストーリー」だ。

 学費が年間数万ドルかかる大学に行けるという見返りこそ、スクロギンスとローの2人が入隊した最大の理由だ。だが、戦場から戻ってきた今、ローはこう話す。

「除隊したら、『軍務、ごくろうさま』という紙を一枚もらっただけ。非軍人の生活に戻るのがいかに大変なことか、誰も教えてくれなかった」

 いわんや、リクルートされた際に、従軍後の余生の困難を知る術はない。PTSDによる不安、寂しさ、無気力、睡眠時無呼吸症候群。ローは、退役軍人病院に頼るよりも、PTSDを患う退役軍人向けに提供されている馬の飼育やヨガのプログラムを探し出して通い、少しずつ回復した。しかし、悪夢で叫びながら目覚める夜は今でも続く。

「非軍人の生活に移行するのは、すごくすごく大変なんだ。今は、もう以前の自分ではない」

 街を歩いている時、常に周りの状況を確認してしまう「サバイバルモード」で心が休まることがない。さらに軍隊と異なるのは、そのサバイバルモードを共有しているチームや相棒が、平和な生活にはいないことだ。

AERA 2015年9月14日号より抜粋